安楽死を決めた彼女をイラつかせた「人々の行動」 その日が来るまでゆっくり過ごしたいのに
「昨日と今日はこんなに天気がいいのに、家から一歩も出ていないのよ。酸素をタンクに詰めて歩行器にセットする力がないんだもの。わたしの人生なんか、薬と運動療法だけ。じっと座って息がとまるのを待ってる。それを端折(はしょ)りたいだけなのに。死ぬときぐらい、ゆっくりさせてくれてもいいじゃない」
安楽死を受け入れられない周囲の人
だがその願いは叶わず、彼女の時間は自らの死の段取りを整えることに費やされた。
悲しんでくれる友人に応対することにも、悩ましい問題があった。親しいけれど最愛の存在とまではいえない多くの友人が、彼女との時間を過ごすために世界中から飛んで来た。そんな彼らのために、ヨランダは時間の都合をつけなくてはならなかった。
ヨランダの知らない子どもを同伴したいといってくる人がいるかと思えば、おすすめのホテルやレストランをたずねる人もいた。事前の知らせなしに訪ねてきた人もいた。
メッセージへの返事が遅れると、「どうしたの?」ときいてくる人さえいた。「どうしたのって訊くわけ?」ヨランダは怒りの返信をした。「肺病だから息ができないだけ!」
友人たちの反応に、ヨランダは苛立った。彼らの意識が、ヨランダの気持ちにではなく、彼ら自身の気持ちに向いているように思えたからだ。
「わたしのために悲しんでいる自分の気持ちを、わたしと分かちあおうとするのよ。わたしのことを思ってくれるのはうれしいけど、彼らといっしょに最期の数週間を泣いて過ごしたくなんかない。
もちろん、わたしは悲しいよ。悲しいんだけど、死ぬことだけ考えて最期の日々を過ごしたくない。わかってほしいの、死についてなら嫌というほど考えたって」