安楽死を決めた彼女をイラつかせた「人々の行動」 その日が来るまでゆっくり過ごしたいのに
そのころには、訪問やビデオ電話による友人たちとの別れも一段落ついて、ヨランダは最期の日々を心のおもむくままに過ごしていた。
最期はもっとも親しい家族や友人たちと過ごしたかった。見舞客に対応することも、スケジュールを考えることもやめた。「ファーマーズマーケットに行きたくなったら行くし、テレビが見たくなったら見る。死ぬ前日でもね」。
傍目には、そこまで衰弱しているようには見えないこともあって、「結論を急ぎすぎているのではないか」と思う友だちもいたが、好きなように言わせておくことにした。「どんな死をよしとするかは人それぞれだから」。
母親の友人のなかには、「ぎりぎりのところで思い直すのではないか」などと言っている人もいたが、それにも反論しなかった。
ヨランダが旅立つ朝にやったこと
ヨランダが旅立つ日の朝。看護師のユーリを待ちながら、わたしはバックパックを開け、薬と注射器が入った箱を取り出した。集った人たちに背を向けて手元を隠しながら、箱の中の物をダイニングルームのテーブルの上に並べた。
パッケージを開封するたびにリストにチェックを入れた。薬品用の大きな注射器5本。チェック。生理食塩水用の小さな注射器4本(薬を点滴チューブに入れるのに使う)。チェック。投与する順番に従って注射器に薬を充填する(チェック、チェック、チェック)。
時刻、ヨランダの名前、ID番号を書き込む。その場にいる人のうち数人の名前と電話番号を書き留める(あとで検死官からたずねられる)。慣れたリズムで手が動き始め、集中力が研ぎ澄まされていくのがわかる。
最後の項目にチェックを入れ終わったところで、背筋を伸ばして立ち上がった。部屋に入ったときには、みんなが歌うのを聞いて思わず泣いてしまったが、もう涙はない。
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