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「作品の称賛=研究」ではない、人文学の目的は暴力の否定/『ナラティヴの被害学』阿部幸大氏に聞く

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『ナラティヴの被害学』著者の阿部幸大氏
[著者プロフィル]阿部幸大(あべ・こうだい)/筑波大学人文社会系助教。1987年生まれ。2023年に博士号取得(PhD in Comparative Literature)。研究コンサルティングのベンチャー企業、株式会社Ars Academica代表。著書に『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』(撮影:尾形文繁)
ベストセラーとなった『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』の実践版である本書には、「ナラティヴの被害学」というコンセプトの下、9本の論文が収められている。
ナラティヴの被害学
『ナラティヴの被害学』(阿部幸大著/文学通信/2420円/336ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

──この本には、今の阿部さんからは失敗作と見える論文も収録されています。

米国留学中の2017〜23年に書いた論文から、9本をおおむね時系列に沿って収録している。失敗作といっていい論文も入れたのは、論文が成長していくプロセスを示したかったからだ。

大学院生は、完璧な論文を書かなければと思いがちだが、そのせいで、なかなか学会誌に提出できなかったりする。しかし、完璧な論文なんてない。書いて、出して、採用されて、「これでも通るんだ」と体感することで、だんだんと書けるようになっていくものだ。

本書では書き手としての成熟・成長のプロセスをそのまま読者に見せたかった。

──各章の冒頭では、執筆・投稿の経緯、その論文がアクセプト(受理)されたのかリジェクト(却下)されたのか、論文への自己評価などのコメントを付し、徹底して手の内を明かしています。

立派な大学の先生たちも、院生や学部生の時期にはうまく書けなかった。そこから徐々に学んで、書けるようになっていったはずだ。

ところが恥ずかしいのか、弱さを見せたくないのか、みんなそういう成長のプロセスを見せたがらない。気持ちはわかるが、私は、そういう部分こそが院生にとって励みになると思っている。

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