前回の記事で紹介したが、ワーナー・ブラザースやNBCをはじめとするその他多くのエンターテインメント企業において、ブロックバスター戦略(メガヒットを生み出す戦略。ヒットを見込める作品に大きくつぎ込み、「その他大勢の作品」につぎ込む費用を大幅に少なくする戦略)には、創造性豊かなトップスターにかける莫大な投資がつきものである。映画スタジオは、ジョニー・デップやジェニファー・ローレンス、ウィル・スミス、クリステン・スチュワート、ロバート・ダウニー・ジュニアなどのスーパースターに気前よく報酬を支払い、そうしたスターのファンを自社作品の観客に変えたいと考える。
スターに集中的に投資する戦略は、今ではエンターテインメント業界の至る所に広がっている。前回の記事で紹介した、ワーナー・ブラザースのアラン・ホーンがブロックバスター戦略に乗り出した1年後の2000年、ハリウッドの大手映画スタジオの戦略を手本にしたと公言するスペインのビジネスマンが、サッカー界のトップ選手に対する投資額をひとりで引き上げた。
レアル・マドリードの会長フロレンティーノ・ペレスは、ショービジネスの考え方を有名サッカークラブに持ち込んだ。いわゆる銀河系軍団戦略、つまりペレスが引き抜いたスター選手の力を利用する戦略を追求することにしたのだ。銀河系軍団主義が最初の頂点に達したとき、スポーツ界きっての人気者だったイギリスのデイビッド・ベッカムが、世界中から集められたスター選手ですでにあふれかえっていた同クラブに加入した。これは確かにマーケターの夢ではあるが、非常に値の張る夢だ。スター選手に高額の報酬を払うことは、理にかなっているのだろうか。
獲得・放出では大赤字、だがスターは採算が採れる
レアル・マドリードは、早期人材育成よりも、絶頂期のスター選手の獲得に専念することを選んだ、コンテンツ制作者の模範例だ。「われわれは、売り手というよりも買い手だ」と、かつてレアル・マドリードのある幹部は表現した。2000年以降の全シーズンにおいて、レアル・マドリードは他チームに選手を放出して得た金額より、選手獲得に費やした金額のほうがはるかに多い。
たとえば、2009~2010年のシーズンは、選手獲得に何と3億7000万ドルも費やしたのに対して、選手放出により得た金額はわずか1億2500万ドルだった。選手の取引に関していえば、2億5000万ドル近い損失を出している。ペレスは着任直後からこの戦略を貫いた。
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