見て見ぬふりをする社会 マーガレット・ヘファーナン著/仁木めぐみ訳 ~自分を守るために居心地の良さを作る
なぜ福島の原子力発電所の事故は、深刻な事態を招いたのだろうか。著者は日本語版への序文に「どのくらいの規模の地震に見舞われる可能性があるのか、そしてその際にどういう影響が考えられるのかという基本的な想定が間違っていたという証拠があったのに、誰も疑問を抱かず、検証もされなかった」からだと書いている。さらに「故意あるいは意図的な看過、意識的な回避、意図的な無関心」が、その理由であると指摘する。
要するに危機に気がついていたのに、「見て見ぬふり」してきたのではないか。それが大惨事を招いた。しかし、そうした「見て見ぬふり」をする傾向は日本人だけの問題ではないという。
では、なぜ人は危機が存在しているにもかかわらず、「見て見ぬふり」をするのだろうか。同質な組織の中にいると、人は組織にとって不愉快な行動を取ろうとはしないものである。組織の持つ「信念に疑問を抱けば、仕事も地位も名声も将来の仕事も全て失う危険性がある」からだ。組織は常に同質な者で構成され、異質なものを排除することで、互いに居心地の良さを作り出す。それは、たとえば“東電一家”とも呼べるような心理状況だろう。そうした組織の中で自分を守るには「見て見ぬふりをする」ことが、最も賢明な選択なのである。