神奈川県愛川町のペルー料理が愛される深い事情 県内で最も「外国籍住民の割合」が高い自治体

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安彦さんもペルー生まれではあるが、父親と一緒に渡日したのは1歳の頃。前述したように沖縄で過ごしたのち、愛川で中学、高校に通った。その後、調理師専門学校で学び、県内のイタリア料理店で8年間働いたのち、「TIKI」の店主を父親から継いだ。

移民の町で、移民が腕を振るう移民の料理

本格的に料理を学んだ安彦さんは、「がっつり」なメシにも、実は繊細ともいうべき気配りも加えている。

牛肉のパクチー煮込み
牛肉のパクチー煮込み(編集部撮影)

たとえば主菜に添えられたライス。定食特有の豪快な見栄えではあるのだが、どことなく香ばしい。

実は米を炊く際、適量のニンニクと塩を加えているのだという。これがまた、濃厚な肉の味を引き立てるのだ。

「アヒ・ワカタイ」と呼ばれる唐辛子ソース
「アヒ・ワカタイ」と呼ばれる唐辛子ソースがトッピングで用意されている(編集部撮影)

さらには牛肉のパクチー煮込み(セコ・デ・レス)などの「がっつり」な一品から、野菜スープ、鶏肉のクリーム煮など、どれもがまさに「いいとこ取り」の味わい。つまり、ペルー料理の特徴ともいえる食文化の融合を感じ取ることができるのだ。また、同店の料理には「アヒ・ワカタイ」と呼ばれる唐辛子ソースがトッピングで用意されているので、"味変"の楽しさもある。

地元ペルー人の胃袋として知られる同店だが、近隣の米軍基地からはヒスパニック系の人々が、そして南米の味を好む日本人が各地から駆けつける。

店内にはアンデス文明をモチーフとした壁掛けや人形、絵画が並ぶ。目と舌で、私たちはペルーと出会う。沖縄から始まった内間さん一家の長い旅路を思う。

移民の町で、移民が腕を振るう移民の料理。口の中で多様性が広がる。

そう、多様性はおいしい。

安田 浩一 ノンフィクションライター

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やすだ こういち / Koichi Yasuda

1964年生まれ。週刊誌記者などを経て2001年よりフリーに。著書に『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書)、『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』(朝日新聞出版)、『「右翼」の戦後史』(講談社新書)、『団地と移民』(KADOKAWA)、『愛国という名の亡国』(河出新書)など多数。2012年『ネットと愛国』(講談社)で講談社ノンフィクション賞を受賞。2015年『G2』(講談社)掲載記事の『外国人隷属労働者』で大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)受賞。『地震と虐殺1923-2024』(中央公論新社)で毎日出版文化賞特別賞。

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