「漫画 君たちはどう生きるか」作者を変えた観察力 観察力を鍛えると必然的に他の能力も鍛えられる

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「察」という漢字と組み合わせると「視察」「診察」という熟語になる。「視察力」や「診察力」は鍛えても、応用可能な能力にならなさそうだ。やはり「観察力」に注目するのが良さそうである。

言葉の中に潜む言霊のようなものを探り、抽象概念を理解しようとするアプローチから「観察」についての思索は始まった。

辞書によると、

観察:物事の状態や変化を客観的に注意深くみて、組織的に把握することとある。「客観的に」「注意深く」というのが、観察を特徴づけているように思う。

そして、「組織的に把握する」というのも重要だろう。もしも、「客観的」を「主観的」に入れ替えたら、「観察」ではなく、どんな言葉になるのか? 「感想」だろうか。もしも、「注意深く」を「全体的に」に入れ替えたら、「視察」になるだろうか。

であれば、観察力とは、「客観的になり、注意深く観る技術」と、そして得たことを、「組織的に把握する技術」の組み合わせと言えるかもしれない。

分けることによって、理解が進む。「客観的になり、注意深く観る技術」「組織的に把握する技術」のそれぞれであれば、鍛え方が見つかりそうだ。

観察力の鍛えられた作家に、良いお題を渡すと…

もう一つ、僕が観察について考えるためにしていたことがある。マンガ家、羽賀翔一の観察だ。

「観察」を理解するために、羽賀翔一の成長を「観察」していた。一般的に、マンガ家と編集者は、多くて週に1、2回、月に数回コミュニケーションをとる関係だ。ネームと呼ばれる下書きや原稿を間に挟み、それを共通の話題として打ち合わせをする。

コルクを創業するときに、新人マンガ家の羽賀翔一と一緒にやっていくことを決めていた。彼の成長をサポートする。生活できるように固定給にして、コルクに毎日、出勤してもらうことにした。

だから、彼の変化を毎日のように観察し、クリエイターに必要なことは何か、という仮説をたくさん立てることができた。僕は、羽賀翔一の観察力を伸ばしたのは、1日1ページマンガを描くというお題の力だと直感的に思っている。

下のマンガは『インチキ君』という作品だ。羽賀翔一のデビューのきっかけになった。まじめな少年につけられたあだ名がきっかけで、少年をとりまく空気は180度、変わった。インチキなんてしていないのに、インチキ呼ばわりされるインチキ君。このようなマンガを描いているところから、羽賀翔一と僕の挑戦は始まった。

『インチキ君』より

お世辞にも彼の当時の絵は上手いとは言えないだろう。しかし、表情の描き方を見て、マンガ家に必要な観察力はずば抜けていて、鍛えれば変わると思った。観察力を上げつつ、観察する対象を変える必要があると思った。

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