かつての日立は一言でいうと「超地味」だった。十数年前に記者として電機業界を担当していたが、当時は野武士的な東芝に対し、公家的な日立、というイメージで、とっつきにくく、守りに入り、まさに「巨象は動けず」という趣。何といっても、グループ全体の従業員数は33万人の超巨大企業である。2009年3月期には製造業市場最悪の7873億円の最終赤字を出し、目の当てられない凋落ぶりだった。川村隆前会長が建て直しの端緒を作り、そのあとを継ぎ、2010年に社長に就任したのが中西氏だ。その復活ぶりは目覚ましく、今年5月には過去最高の営業利益を達成、今や青息吐息の東芝と差を大きく広げている。
日立の中西氏の「凄コミュ」ぶり
中西氏の凄コミュぶりはこちらの日経新聞の動画を見ていただきたいが、英語で堂々とディスカッションやプレゼンをし、原稿もなく自分の言葉で思いを伝えることができる。英語力は正直言って、ネイティブには程遠い。しかし、物おじしない気迫、押し出しぶりで、「場を支配」する。「場を支配する」。英語ではOwn the roomと言うが、つまり、その場の空気を、話し手の色に染められるかということだ。誰もが壇上の言動にくぎ付けになり、あたかもそこだけにスポットライトが当てられているような錯覚をしてしまう―。場を支配する強烈な磁力、それこそが強いリーダーシップの源泉だ。
アメリカの名門スタンフォード大学院でたった1年間で修士号をとったという超エリートではあるが、どこか泥臭さも漂わせる。転機となったのは、3年間のアメリカでの経験だという。子会社建て直しの任を担ったものの、赤字続きの企業をどのように立て直すか―。悩んだ末にたどり着いたのが、直接社員や取引先などと対話をするための「タウンホールミーティング」だった。
タウンホール、つまり公会堂のような集会場で、お互いの思いをぶつけあう。一方的に自分の話を押し付けるのではなく、相手の言い分に耳を貸し、心を通わせる中で、従業員のモチベーションの強化を図り、結果的に問題続きの子会社の黒字化に成功する。「ほとんどはコミュニケーションで決まる」と口を酸っぱくして、その重要性を説く背景には、「対話」の成功体験から生まれた中西氏の思い入れがある。中西氏は、この「対話力」を最大の武器に、海外大手企業のトップの懐に飛び込み、猛烈なトップ外交を繰り広げている。
「CEOがくたびれていてはいけない。エネルギーレベルが重要だ」。中西氏のこの言葉はコミュニケーションの最も本質的な価値を突いている。中西氏が社員向け集会などで見せる気迫と熱気は“松岡修造”並みのアツさだ。日本の社長に足りないものがまさに、この「熱量」。株主総会をのぞいて、がっかりするのが、なんとも「低体温」なトップのコミュニケーションだ。原稿を読み上げることに終始し、株主と視線を交わすこともない。単なる儀式と言われればそのとおりだが、アメリカの株主総会はお祭り騒ぎ、まさに企業と株主のファンミーティングのような盛り上がりぶりだ。
この動画は世界最大の小売りチェーン、ウォルマートの株主総会の様子だが、コンサートなのか党大会なのか、といった熱気だ。せっかくの年に一回のステークホルダーとの対話の機会が、「退屈な説明会」で終わるのは何とももったいない気がしてならない。別に松岡修造になれ、というわけではない。しかし、何とか伝えたい、という「思い」がなければ、伝わらないものだ。トップの波動や情熱は伝播する。言葉だけで「チャレンジ」なんて言われたって、人は簡単には動けない。
今回の黄金原則は「場の支配力」、「対話力」とそして、「熱量」。エラそうなことばかり言いますが、社長のみなさん!もっと我々を楽しませてください。鼓舞してください。勇気づけてください。あなたが変われば、私たちもきっと変わります!!-社員一同。
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