会社に行くのをやめ、携帯電話の電源も切った。そして気づいた。自分が問題を解決しようとしているのではなく、問題から逃げていることに。この状況を変えなければ、僕はいずれ破綻してしまう。
ひと晩熟慮して、考えを整理してみた。そして、僕は人に仕事を任せることにした。自分がいなくても、会社が回るようにしなければならないと気づいたのだ。
「考え方」を伝えるためにしたこと
翌日、オフィスに足を踏み入れたとたん、さっそく従業員から質問された。
「デレク、昨日、僕たちにCD販売を依頼してきたミュージシャンが、気が変わったからCDを返送してほしいと言ってる。CDを登録する作業はもう終わってるんだけど、まだサイト上で公開されたわけじゃないから、登録料を返金してもらえないかと言うんだ」
今回は、その場でその従業員に答えるのではなく、「1分だけ話をさせてほしい」と言って全員をその場に集めた。
まず、状況をもう一度説明してもらい、次にその従業員の質問に対する僕の答えを述べた。ただしそれよりも重要なのは、僕の答えの背後にある考え方をみんなに理解してもらうことだった。
「この場合、全額返金してもいい。たしかに会社は少し損をする。でも、特別大きな損失を出さない限り、顧客を幸せにすることを一番大切にしよう。これが、CDベイビーの考え方なんだ。
それに、こうした小さな出来事で、そのミュージシャンは周りに「CDベイビーはすごくいい会社だ」という良い評判を伝えてくれるかもしれない。僕たちの使命はまず、ミュージシャンの助けになること。利益はその次でいい。
これから同じような状況が起こったら、この考えを基準にして、各自がその場で判断してくれてかまわない。ミュージシャンにハッピーになってもらえることをしよう。僕たちと関わる人を、みんな笑顔にしよう」
僕は、全員にこの考えを理解してもらったことを確認した。
そして、従業員の1人に、こういった状況に対する回答と、その背後にある考え方を、マニュアルとして書いてもらった。
それから、みんなまた仕事に戻った。
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