カール・ポランニー 市場社会・民主主義・人間の自由 若森みどり著 ~創造的な自由を求めた巨匠の全体像に迫る
資本主義でも社会主義でもない、もっと人間的な経済社会の理想がある。そんな希望を抱いて資本主義の動態に斬新なメスを入れた経済思想の巨匠、カール・ポランニー。彼の生涯と思想の全体に迫る労作が現れた。
古典的な名著とされる『大転換』は、19世紀から20世紀にかけての資本主義が「社会の自己防衛」によって一定の文脈のなかに埋め込まれていくダイナミズムを描いたものである。だがその「埋め込み」とは、どんな理想へ通じているのだろう。
ポランニーは、ある意味で当時の左派の思考習慣を共有していた。すなわち国家は非情な官僚制として、市場は無味乾燥とした貨幣システムとして、それぞれ非人間的な機構を作り上げている。そんな両システムを廃して、もっと人間的に豊かな関係を築くことはできないのか。かかるヒューマニズムに導かれたポランニーは、初期マルクスとキリスト教(カトリック)を資源として、国家にも市場にも還元されない民主社会を展望したのであった。
その理想は、若い頃は「キリスト教社会主義」のビジョンに結実した。だが晩年のポランニーは、弟子との会話からなる膨大な遺稿「ウィークエンド・ノート」を残し、そこではもっと現実的なビジョンへたどり着いたことが、本書で示される。労働者の権利を擁護するための各種施策を中心として、市場の権力にさらされない生活の理想を描くものであった。