カール・ポランニー 市場社会・民主主義・人間の自由 若森みどり著 ~創造的な自由を求めた巨匠の全体像に迫る
他方でポランニーの偉大さは、自分の理想が決して実現しないことを自覚した点にあるだろう。主著『大転換』の結論部分で、彼は理想がかなわないことを諦観(忍従)する、と述べている。そんなに簡単に理想をあきらめられるかという疑問も湧くが、本書の読解によれば、彼の「諦観」の真意は、人間が不完全で死すべき存在であることを「覚悟して受け入れるべきだ」という理解に基づいている。
人間は、死んだ状態よりも「悪い魂」の生活を送ることがある。そんな未熟な人間の本性を見定めつつ、それでもなお理想を求めるという姿勢に、ポランニーの人間的な矜持があるだろう。
かかる覚醒の理想に照らすと、現実の人間は至るところで不自由である。何よりも私たちは、技術的に複雑な社会のなかで、意図せずして他者を強制するミクロ権力の連鎖に巻き込まれている。そんな非情な権力を「隣人愛」の理想へ変換できないか。ポランニーは産業社会の順応主義的傾向に抗い、創造的な自由を求めた。本書はその経緯を鮮やかに描き出し、巨人の規範構想を体系的に蘇らせることに成功している。
わかもり・みどり
首都大学東京・社会科学研究科・経営学専攻准教授。専門は社会・経済思想、経済思想史。大阪市立大学経済学部を卒業、東京大学大学院経済学研究科で博士課程単位取得退学。
NTT出版 4200円 288ページ
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