「各メーカーが技術を競って製品を開発してくれるわけですが……。シニア向けデジタル機器のデータショーの会場などで、メーカーの方に高齢者のニーズを聞かれることがありますが、知りたかったら自分のおじいちゃんやおばあちゃん、お父さんやお母さんと一緒に何日か過ごすのがいいですよ、と伝えています。日常生活に付き添って何かを手伝ってあげたら、年寄りなりの工夫や不便さなどがよくわかると思います」
シニアのニーズを反映すべきは、シニア用製品に限ったことではない。たとえば、公共公益施設の仕様もそうだ。
若宮さんはわかりやすい例として、駅のトイレの荷物用フックをあげる。シニアにはフックの位置が高くて、届かないのだ。トイレに入ってから、バッグをかけられないとわかったときの絶望感はどうしてくれようと思う。
「年寄りはトイレの利用者として想定外なのでしょうか? 音が出たり自動水洗だったり、いっぱい機能がついているんだから、フックくらいケチケチしないで高さを変えて2つくらいつけたっていいじゃないと思います」
高齢者向けの「スマホの使い方講座」は無駄
高齢者問題を考える政府の会合では、「とにかく80代後半になったら、耳がまともに聞こえないのが当たり前なんです」という話をしたことがあった。出席者の1人は、さっそく厚生労働省の専門家に若宮さんの話を確認したらしく、後日、「なるほど! 耳が遠くなるんですね」と若宮さんに報告してくれたとか。
「政府の会議も、まだこのレベルなんですよ。高齢者のこと、非常にわかっていません」
若宮さんは苦笑するが、まったくめげていない。
デジタル化社会の波は止められない。無人レジを設置するスーパーが増え、役所の公的手続きもオンライン化の流れだ。それは進みこそすれ、後戻りはないと若宮さんは言う。自治体は、人口が多いシニア世代にもっとスマートフォンの機能をマスターしてもらって、オンライン化に移行させたい。若宮さんも大賛成だ。
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