｢パブロフの犬｣のかわいそうな犬たちの"その後" 誰もが知っている有名な実験がもたらした問題

パブロフの犬は、心理学者たちに学習行動の科学について気づきを与えたことで有名になった。しかし、それから数年後に、このかわいそうな犬たちの身に何が起こったかは、あまり知られていない。

1924年、パブロフの研究所と犬舎があったレニングラードを大洪水が襲った。洪水は、犬のケージのすぐ近くまで押し寄せた。何匹かは助からなかった。生き延びた犬たちは、安全な場所まで400メートル近くも泳ぐことを余儀なくされた。

のちにパブロフは、犬たちがそれまでに経験した中で最もトラウマになる出来事だったと回想している。 そして、不思議なことが起こった。犬たちは、ベルが鳴ったらよだれを垂らすという学習行動を忘れてしまったようなのだ。

強烈なストレスが心に“消えない傷”を残す

洪水が引いた11日後、パブロフはある1匹の犬について次のように書いている。

『SAME AS EVER この不確実な世界で成功する人生戦略の立て方:人の「行動原理」が未来を決める』 （翻訳：伊藤 みさと）（三笠書房）。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

身についていた条件反射は、ほぼ完全に消失した。（ベルを）鳴らしても、犬は餌を食べず、非常に落ち着きなくドアを見つめるばかりだった。

好奇心旺盛な科学者だったパブロフは、洪水によって犬の行動が変化した理由について何カ月も研究した。洪水のあと、ほとんどの犬は性格がすっかり変わり、それまで染みついていた学習行動も取らなくなってしまった。

パブロフはいったい何が起こったのか、それが人間にどのように当てはまるか、次のようにまとめている。

極度の興奮を生むさまざまな条件が重なると、神経活動や精神活動のバランスが大きく崩れ、しばし戻らなくなる……自分自身や近しい友人に極度の危険が降りかかったり、自分には直接関係のない恐ろしい光景を目にしたりした結果、神経症や精神病を発症する場合がある。

著者フォローすると、モーガン・ハウセルさんの最新記事をメールでお知らせします。