基礎訓練を終えた兵士たちは、自信と虚勢に満ちあふれ、前線に加わることや戦うことを熱望した。しかし、いざ銃撃されると、すべてが変わった。アンブローズはこう書いている。
「訓練で戦闘に備えられるわけがない」
銃の撃ち方や命令への従い方は教えてもらえるかもしれない。しかし、「機関銃の砲火が飛び交う戦地で、銃弾の破片の雨が降りしきる中、無力に横たわる方法を教わることはできない」。
実際に経験するまで、誰も理解できないのだ。
これらは極端すぎる例である。
しかし、ストレス下にある人々が、ストレスのかからないときなら決して受け入れないようなアイデアや目標に飛びつくことは、歴史のそこかしこで起こっている。
第二次世界大戦後、94パーセントの税率が適用された。
1920年代までは低税率が最も人気のある経済政策であり、増税を提唱する者は片隅に追いやられていた。しかしその後、世界恐慌と戦争の二重苦ですべてが崩壊した。
1943年、フランクリン・ルーズベルトは年間40万ドル相当までを実質的な所得の制限とし、それ以上の所得には94パーセントの税を課した。
翌年、ルーズベルトは圧倒的大差で再選を果たした。第40代アメリカ大統領レーガンが行った社会福祉支出の抑制、規制緩和と大幅減税である「レーガン革命」も同じだ。
1964年の時点では、アメリカ国民のほぼ80パーセントが政府に高い信頼を寄せていた。だが、1970年代に入り、高インフレと高失業率が何年も続いたことで、政府こそ問題の原因であり、解決策になっていないと糾弾する政治家に、国民は耳を傾けるようになった。
ここでの大きなポイントは、たとえば5年後や10年後に、人々がどんな政策を求めるようになるかは、まったくわからないということだ。
予期せぬ苦難は、平穏なときには想像もしないようなことを人々にさせ、考えさせる。
「パブロフの犬」たちのその後
生理学者・心理学者のイワン・パブロフは、犬によだれを垂らさせる訓練を行なった。
彼は、犬に餌を与える前にベルを鳴らした。すると犬たちは、「ベルの音」と「もうすぐ餌がもらえること」を結びつけるようになり、ベルを聞いただけで唾液の分泌反応を起こすようになった。
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