「日本型軽減税率制度」は、本当に使えるのか 財務省が示した「還付型」の問題点とは?

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情報には価値がある。だから、情報を不正に盗もうとする輩もいる。しかし、あらゆる品物についてどこに住み何歳の人がいつ何を買ったかではなく、符号でしか把握されないある人物が対象品目だけトータルでいくら買ったかという情報でしかないので、かなり価値が落ちて盗む動機も減る。しかも、店舗やカードにはその情報が保存されない。

むしろ、クレジットカードやポイントカードを使えば、今でも、誰がいつ何を買ったかについてつぶさに把握されており、それが「ビッグデータ」として注目されている。だから、購入情報にまつわる問題は、マイナンバーカードではなく、むしろクレジットカードやポイントカードにおける問題である。

「給付措置型」と比べ国民にメリットがあるのか

このように、「還付型」は、どうやら国が国民の情報を一網打尽に集めなければ執行できないというわけではなく、単に誰にどれだけ消費税負担を軽減するかだけがわかれば十分、という制度設計のようである。

とはいえ、「還付型」は問題なしとは言えない。小売り段階で消費税負担を軽減するときにだけ、マイナンバーカードの情報を読み取る装置があれば実行できて、対象品目を売らない店舗にはその装置はいらない。だが、零細な小売業者にカードリーダーを支障なく運用できるかという懸念はある。ネット通販で購入する場合、どう個人認証をするかも、まだ決まっていない。子どもがお遣いで買い物をする場合、誰のマイナンバーカードを使うのかとか、検討課題はまだある。

軽減税率よりも「還付型」の方が、制度的には優れている。しかし、制度導入の初期費用と負担軽減のための多少の手間をかけてでも、こうした消費税の負担軽減を行うのか。代替策として提起されている簡素な給付措置(こちらもマイナンバーが必要)と比較してもなお、国民にメリットがより多いと言えるのか。感情論や政府に対する不信感を超えて、制度やシステムの設計の観点から、冷静な議論と意思決定が必要だ。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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