さらに、いかに優れていても、そして、その人が万一、政府に加わったとしても、スピード感と行動パターンの違う政府の活動に巻き込まれた瞬間から、民間人としての能力は劣化していく。例えば、アメリカのテスラのCEO(最高経営責任者)であるイーロン・マスク氏が、これまでどんなに優れていたとしても、余計な活動と意欲が生まれてきた現在、トランプ次期政権にかかわることで、さらに劣化していくだろう。
しかし、もっと重要なことに、大局や未来ヴィジョンを描ける人は、21世紀の現在、この世に存在しなくなってしまったのだ。地球上にはいないのだ(そして宇宙にもいない)。
21世紀に未来を見通すのは原理的に無理
なぜなら、21世紀とは、多様性の時代、つまり混沌とした時代。そして、不透明な時代、かつ変化の激しい時代。この状況で、未来を見通そうとするのは、占い師だけだ。原理的に無理なのだ。
前述のファウンドリーの話でも触れたように、だからこそ、戦略転換して、垂直統合しなくなったのだ。プラットフォームビジネスという、他人にリスクとコストと努力を押し付けて、ある程度の変化、激しい競争から一歩離れて、儲けだけ独占しようという手法が主流になったのだ。そして、この地位を占めようと激しい競争が行われ、結局、プラットフォームの運命も結局危うくなるのだが、とりあえず、まずプラットフォームをとってから、その先は考えるのである。
これが、第4の理由も成立しなかった構造的要因である。もはや、百年の計を立てようにも、百年の計と言った瞬間におろかなのである。原理的に存在しえなくなったヴィジョンというものを百年かけて達成しようとするのだから、これ以上滑稽なことはない。
しかも、この21世紀の構造変化、原理的変化に気づいていない人々は、百年間、百年の計を十年ごとに立て続け、毎回失敗を続ける。十年に一度、百年に一度の危機が来ることを自ら招いているのである。そして八十年ぐらい経って、何かおかしいと気づくのである。
だから、ラピダスが失敗するのは、政府がだめであるからでも、日本が特にだめであるからでもなく、無理なことをしようとしているから、無理だ、というだけのことなのだ。そして、これは半導体に限った話ではない。先端技術に関する国家プロジェクトはすべて失敗が必然であり、しかも、それは政府のせいではなく、21世紀のせいなのだ。それに気づかない政府に問題はあるのだが。
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