このモー子のセリフの中にこそ、スタバの矛盾がある。つまり、全国「どこにでもある」スタバがなぜか、「そこにしかない」特別感を持っているのだ。
コーヒーにこだわってるのに「フラペチーノ」という矛盾
それだけではない。スタバの矛盾は商品にもよく現れている。スタバをサードウェーブコーヒームーブメントのきっかけだとする考えは一定の妥当性がある。実際、スタバの実質的な創業者であるハワード・シュルツの自伝を読むと、スタバがそのコーヒーにいかにこだわっているのかが力説されている。シュルツはこう言う。
「われわれの使命は、すばらしいコーヒーの味を理解する人々を増やすと同時に、そうしたコーヒーに接し、楽しめる場所を広げることなのだ」(ハワード・シュルツ『スターバックス成功物語』)
シュルツは、スタバを創業させる前にイタリアにコーヒー留学ともいえる旅をしており、そこで出会ったイタリアのカフェ文化に感銘を受けて、これをアメリカで流行させることに使命感を覚えたという。
こうしたコーヒーへのこだわりは、シュルツ個人の想いを超えて、現在までも続いている。スターバックスコーヒージャパンの現在のミッションステートメントには「人々の心を豊かで活力あるものにするために—ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」とある。
ここにもしっかり「コーヒー」という言葉が入っているのがわかるだろう。コーヒーへのこだわりこそ、スタバの1つの軸を作っているといってよい。
しかし、スタバによく訪れる人がいるなら思い浮かべてほしい。今のスタバが強く押し出し、いつも話題になっている商品はなんだろうか?
それはフラペチーノである。氷菓子を表す「フラッペ」にイタリア語風の接頭辞がついているこの商品は、現在のスタバの中核を成す商品で、月ごとに売り出される限定味は、スタバユーザーの中でも大きな話題となる商品の1つだ。メロンがふんだんに使われた「The メロン of メロン フラペチーノ」や、全国各地の名産品が使われたフラペチーノはSNSなどでも大きな話題を呼んだ。
しかし、このフラペチーノは、本場イタリアのコーヒー文化にはまったく存在しない商品である。それどころか、凝縮された苦味を楽しむコーヒーやエスプレッソに対して、甘さが際立っている点においては、正反対の商品だといってもいい。また、中にはコーヒーやエスプレッソがまったく入っていない商品もある。
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