「もはや共存していたと言ってもいいくらいです。ゴキブリも逃げる必要性を感じていなかったんじゃないでしょうか。床、壁、天井、テーブル、至る所が一面ゴキブリで埋め尽くされていたんです」(文直氏)
作業の序盤、片付けにあたっていた文直氏の弟・信定氏が、押し入れのモノをゴミ袋に詰めながら、「今までで一番虫の量が多かった現場は?」という問いに対し、こんなことを話していた。
「団地の現場だったんですが、冗談抜きで千匹以上。いろんな種類のゴキブリがいました。住人の方が生ゴミを袋に入れたまま長年放置していたようです。見積もりのときは気づかなかったんですが、作業当日まで人がいない状態が続き、その間にものすごい数のゴキブリが袋から出てきた。人が見る一生分のゴキブリをそこで見たと思います。
作業する前にバルサンを焚いたんですけど、ゴキブリって弱ると上に登っていく習性があるんです。なので、作業中は、天井で力尽きたゴキブリが肩にボトボトと落ちてきました」
ゴキブリを捕食するクモも大量発生
しかし、今回の現場は、その団地の一室をはるかに上回った。
キッチンに置かれた大型冷蔵庫を持ち上げると、現場にいたスタッフたちは凍りついた。床は冷蔵庫の形に四角く真っ黒になっていた。まるでコーヒーの粉を丸ごとこぼしてしまったかのようだ。だが、それはすべてゴキブリの子どもと卵だったのだ。
前出の団地の現場が千匹だとすれば、「あれは1万匹の世界だった」と文直氏は言う。
片付けの最中、ゴキブリを捕食することで知られる「アシダカグモ」がゴミの上を頻繁に行き来していた。本来、このアシダカグモはゴキブリを駆逐してくれる存在なので見つけてもそのままにしておく人も多い。しかし、ゴキブリの量があまりにも多すぎて、クモにとっても圧倒的に供給過多だった。
そんな状態ではゴキブリが減るばかりか、ただただクモの量も増えていくばかりだった。
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