(第29回)製造工程なき製造業、日本は方向付け不定

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これは70年代のことだ。私は大学院生としてイェール大学にいたが、アパートの隣は、エレクトロニクス専攻の台湾からの留学生だった。イェール大はこの分野は得意でないのだが、そうした学生が多かった。MITやスタンフォード大には、もっと大勢いただろう。彼らは台湾を脱出するつもりで渡米したが、大陸中国が台湾を併合しなかったので、帰国した。そして、エレクトロニクスの企業を創業したのだ。

日本は、いまだに方向付けがはっきりしない。OEMやEMSは活用しているし、事実それが冒頭で見た貿易の数字に表れている。しかし、「先端技術なら国内」との考えは、いまだに強い。ソニーに続き、パナソニックが赤字に転落し、シャープの亀山工場が中国に移転するのを見て、いかに先端技術といえども、大きく変貌しつつある製造業の生産方式と独立でありえないことがようやく認識されるようになってきた。

では日本企業も、アップルを見習ってアジアのEMS企業と連携し、自らはファブレス企業になればよいのだろうか?

そうは言えない。なぜならファブレス企業とは、製品のアイディアやブランド力で勝負する企業だからだ。日本企業のブランド力は残っているが、アイディア力は決定的に失われている。今後の比較優位をどこに見出すかが、最大の課題だ。


野口悠紀雄(のぐち・ゆきお)
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)


(週刊東洋経済2012年1月7日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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