「これでやっとスタートラインに立てた」
石川県かほく市大崎地区で織物工場を経営する中村隆幸・ナカムラ物産社長はほっとした様子だった。
河北潟の干拓地に近い中村社長の工場では、元日の夕刻を襲った能登半島地震で地盤が液状化し、建屋に深刻な被害が生じた。それから8カ月が過ぎた今年9月中旬、中村社長は石川県が中堅・中小企業の復旧のために用意した「なりわい再建支援補助金」の申請にようやくこぎ着けた。申請手続きのために商工会の職員などの援助を受けて厚さ3センチメートルにもなる書類を用意し、3カ月をかけて準備作業を終えた。
なりわい再建支援補助金とは、能登半島地震で被害に遭った中堅・中小企業の再建を支援するために設けられた石川県による補助金だ。国および石川県で総額300億円の予算を用意し、再建に取り組む企業に交付する。必要資金の4分の3を補助するこの支援策は、復興を目指す企業にとって文字通り命綱となっている(中堅企業の場合は2分の1補助)。
ナカムラ物産は、建物の再建に約1億円の費用が必要だと見込む。申請が採択されれば、このうち4分の3が補助される。「これならば隣接地で工場を再建できる」。こう考えた中村社長は、今の状況を「スタートライン」と表現した。
液状化で「工場が3つに割れた」
1936年創業のナカムラ物産は、かほく市では老舗の繊維企業だ。隣接する石川県内灘町の繊維商社から原料の糸を仕入れ、パジャマやスウェットなどに組み入れる「インナー」と呼ばれるゴム製品を製造している。中村社長と妻、そして2人の正社員のほかに、パートや内職など12人を雇っている。
8月下旬、中村社長の工場を訪ねた。東西60メートルもある細長い工場の建屋は増築した際の接続部分が上下にずれてしまい、「地震で3つに割れた」(中村社長)。ベニヤ板で補強し、雨露をしのいでいるが、建屋は少しずつ傾きが大きくなっているという。
それでも操業再開を果たした。中村社長は地震発生当日から工場で寝泊まりし、復旧作業を陣頭指揮した。翌1月2日には懇意にしていた建設会社の社長が支援に駆け付けた。亀裂の入った工場の建屋には筋交いを入れ、ベニヤ板で補修した。
中村社長自身、早期再開は無理だと思っていた。だが、幸いにも機械に損傷がなかったことから、1月中旬には操業再開にこぎ着けた。仕上げ工程などで必要な水は、近くの畑にある井戸からくみ上げ、ポリタンクに入れて一輪車に載せて工場に運んだ。同じく被害が大きかった仕入れ先の繊維商社も原料糸の供給を絶やさず、15~16社ある得意先からの注文にこたえ続けた。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら