文化と外交 パブリック・ディプロマシーの時代 渡辺靖著 ~国際社会でどのように生きたいかが問われる
評者 中沢孝夫 福井県立大学特任教授
企業の社会的評価の高さは、社員のモラールアップに欠かせないが、国家もまた国際世論とともにある。相手国の人々の「心と精神を勝ち取る」パブリック・ディプロマシー(世論外交)の意味を、豊富な事例と説得的な「論」の点検を通して語る本書は、今日のわが国のありかたに大きな示唆を与えている。
「この世にユートピアが存在しないように、負の現実を持ち合わせない社会も、無謬の政策も存在しない。そうした現実を意図的に隠蔽し、都合よく脚色することはもはや完全なる時代遅れであり、むしろ自らを批判できる『器の大きさ』や『自省力』あるいは透明性や対話力といったものが、メタ(上位の)・ソフト・パワーを構成するようになっている」と著者は指摘する。
そうなのだ。日本はどのような国際的地位を獲得したいのか、あるいは国際社会でどのように評価されたいのか、ということを問うとき、文化の厚みや普遍性を根拠とした国際的な対話力が欠かせないだろう。それは時には砲艦以上に役に立つ。
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