自民党「空騒ぎ総裁選」で最後に笑うのは誰か? 「政治に期待できない」空気感がより強まる懸念も

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文学研究者で作家のジョナサン・ゴットシャルは、『ストーリーが世界を滅ぼす 物語があなたの脳を操作する』(月谷真紀訳、東洋経済新報社)で、マスメディアがこぞって過熱する政治ドラマに便乗した結果、2016年のアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ氏を勝利に導いた側面があると論じた。

どのテレビ局も新聞も、トランプ氏を「進行中の政治ドラマの主役に仕立て、彼は毎日、毎時間のように新たな暴言を吐き、新たな展開をもたらして期待に応えた」という。「それはゆっくりと展開する文芸小説ではなかった。大どんでん返しのある無茶苦茶な筋書きの政治メロドラマだった」とし、トランプ氏の「大統領就任は、彼がナラティブ心理をハックし、彼を軽蔑する人々が圧倒的多数だった報道機関に数十億ドル分相当の宣伝を無料でやらせることができた結果だった」と述べた(同上)。

つまり、人々の「物語を語る動物」としてのポテンシャルが見事に活性化されたのである。トランプ氏は、退屈ではない「悪役(ヒール)になりきる」ことによって、ジャーナリストや報道機関がこぞって食い付く絶好のエサとなった。

懸念すべきは、空騒ぎ後の反動

今回の総裁選は、国政選挙ではないので、民意が直接反映されるものではない。しかし、こういった物語を操る能力に磨きをかければ、小泉氏のようなショーの主役になりやすい政治家は、総裁選後の選挙においても注目を獲得し、圧倒的な宣伝力を発揮するだろう。小泉氏が「できるだけ早期」の解散を明言していることは大いなる皮肉である。

メディアを通じたマインドハックは、例えネガティブな批評であっても「話題の人」として人々の興味を引き付け、その評価をめぐって議論が紛糾することも含めて、コミュニケーションが雪だるま式に膨れ上がることにこそ真の深刻さがある。そして、おそらくは、この空騒ぎの後の反動が最も懸念すべき事態を引き起こす可能性が高い。政治に何ら期待を持てないという空気感がより強まるからだ。

筆者は『山本太郎とN国党 SNSが変える民主主義』(光文社新書)において、政治に対する絶望感が広がることでポピュリズムの台頭が促されることを、2019年の参院選で国政政党に格上げされた新興政党を例に指摘したが、都知事選で元安芸高田市長の石丸伸二氏が突如躍進したように、ポピュリズム的な政治勢力が伸長するかもしれない。

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