「たくさんのことをいっぺんにできる人間ではないので、浪人する気持ちでいました。現役の受験は藝大1本でしたが、舞い上がっていましたね。試験会場に小太鼓を持って入ったのですが、入れると音が出る『響き線』という部品が直前に切れてしまったんです。
普通は修理する道具を持っているのですが、それも持っていなくて……。急遽藝大の楽器を借りて演奏したのですが、もう何も覚えておらず、1次試験であっさり落ちてしまいました。落ちて初めて、悔しいと思いました」
落ちるとは思っていたものの、実際に落ちたことで悔しい思いをした石橋さんは浪人を決意します。浪人した理由について聞くと、「1年で入れるレベルではないとわかっていたから」と話してくれました。
アルバイトをしながら浪人をスタート
「最初から浪人するつもりで『アルバイトしながら受験勉強をがんばります』とは両親に伝えていました。両親は藝大の受験を経験していないため、レベル感がわからなかったと思いますが、『藝大は狭き門だし、そんなにすぐに入れない』と、理解を示してくれたのがありがたかったです」
こうして1浪に突入した石橋さんは、現役のときと同じようにレッスンに通いながら、小学校時代、中学校時代の先生が新たに赴任した学校の吹奏楽部を手伝いに行きました。
その当時のスケジュールは、週3〜4回スーパーでのアルバイトを午前9時~午後1時までこなしてから、学校でお手伝いをしたり、レッスンに通って、練習を続けていました。
「先生方が学校に呼んでくださったおかげで、音楽的な関わりを持ちながら、練習できる環境をもらえたのがありがたかったです。自宅でも、小太鼓の形をした消音の練習台を叩いて、ひたすら練習していました。でも、この年も音大受験生とのつながりはなく、ノウハウを得ることができなかったので、藝大は1次試験で落ちてしまいました」
この年は私立の音楽大学も受験して合格しましたが、学費が高かったこと、通学時間が長かったことに加えて、藝大に行きたいという思いが忘れられずに入学を辞退します。
「なぜかポジティブで、すぐ2浪目もしようと思っていた」石橋さんは、切り替えてまた訓練の日々を再開します。
しかしこの年、石橋さんの家庭に大きな変化がありました。
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