富士ソフト「物言う株主」に翻弄された数奇な運命 ファンドの争奪戦で創業家と会社が対立構図に
しかしこの「持つ経営」が、アクティビストを呼び寄せる一因となった。2022年3月に筆頭株主に躍り出た3Dは、富士ソフトが保有資産を活用できず、競合他社と比べて資本効率が低い点を問題視した。不動産投資分を本業に回すほうが会社の成長に寄与する、という主張だろう。
アクティビスト対応に詳しいデロイトトーマツエクイティアドバイザリーの古田温子社長は、「(一般論として)アクティビストの中でのテーマの1つが『創業家』だ。創業家のガバナンスで大きくなり、上場を果たした歴史がある会社でも、時価総額や機関投資家の存在が大きくなると、一般的なガバナンスに変えていかないといけない部分もある。会社の成熟度が追いついていない(隙がある)場合、アクティビストに突かれやすい」と話す。
ゴールドマン・サックス証券出身の長谷川寛家氏が2015年にシンガポールで立ち上げた3Dについて、ある業界関係者は「オーソドックスで洗練されたアクティビストだ。最終的に(自身の要求を対象企業にのませるようなかたちで)確実に仕留めに行っている印象がある」と評する。
2022年以降、3Dは自社が推薦する取締役の選任などの要求を強めていく。同年3月の株主総会では、長谷川氏を含む2人を取締役に選任するよう求める株主提案を行い、結果は否決。同年12月の臨時株主総会でも新たに4人の取締役選任を求めたが、このうち富士ソフトも支持した人物を除いた2人の提案は否決された。
非公開化へ一気に動き出した3D
経営改革を求める3Dの指摘に対し、富士ソフトは一定の理解を示したうえで、企業価値向上委員会を新設して対応を進めてきた。2023年2月には自社の不動産事業を縮小する方針を示し、すでに一部の売却を開始。同年11月には上場子会社4社の完全子会社化も発表し、利益相反の観点から批判が大きかった親子上場の状態を解消した。3Dが株主になったことで、富士ソフトの経営改善が進んだとの見方もできる。
ただ、アクティビストが「エグジット」(出口)を見据え始めたとたん、雲行きが大きく変わる。
2023年3月に創業者の野澤氏が退任すると、3Dはそれを好機と捉えるかのように、富士ソフトの非公開化に向けて本格的に動き始めた。非公開化は、アクティビストにとっては自社の保有株式を高値で一気に売却できるため、利点が大きいとされる。
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