三谷幸喜「5年ぶり新作」に入り交じる期待と不安 「スオミの話をしよう」は傑作となるか、酷評か
また、同映画祭では『ステキな金縛り』『ギャラクシー街道』『記憶にございません!』が特別上映され、観客からいちばんおもしろかった作品として拍手が多かったのは『ギャラクシー街道』だった。すると三谷監督が「日本では酷評され、僕の映画のなかでいちばん不入りだった」と驚く一面があった。
そんな観客たちは、講演のなかで上映された『スオミの話をしよう』特別映像にも、この日いちばんの盛大な拍手を送っていた。『スオミの話をしよう』と『ギャラクシー街道』には、韓国の三谷作品ファンのツボに刺さるポイントがあるのかもしれない。
観客の予想の先を行くラスト
本作は、5人の男たちの濃すぎるキャラクターと、その周囲の裏がありそうなクセの強い登場人物たちによるストーリーがテンポよく進んでいき、三谷節の効いたコメディを楽しんでいるうちにあっという間に前半が過ぎていく。
そして、物語の全体の輪郭がつかめてくると、謎だらけのスオミの正体と、なぜ彼女が失踪したのか、推理に頭を走らせるようになる。ストーリーの流れを追いながら、これまでのシーンも思い返し、スオミの言動の背景を考える。気づくと頭の中がスオミでいっぱいになり、劇中の5人の男たちと同様に、彼女の不思議な世界の中にいる。
いつの間にかすっかり物語に引き込まれてしまうのだ。そして、後半に差し掛かるくらいには、ぼんやりと大まかなスオミの謎が読めてくる。わかる人はその辺りで彼女のほとんどを見通すかもしれない。
しかし、ラストで起こることまでは、誰も予想できないに違いない。観客が思い描いたスオミの事情には、さらに先があるのだ。そこから、ゴージャスなミュージカルに誘われる。三谷監督が演劇的な映画にしようとしたことが伝わってくるラストに、胸が熱くなった。
もともと演劇界の人である三谷監督が、思いきり自身の原点に振り切って制作に挑んだ本作は、前述の韓国の映画祭ディレクターの言葉を借りれば「三谷作品の集大成となる傑作」。その言葉どおりだと感じる。
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