電力自由化 発送電分離から始まる日本の再生 高橋洋著 ~自律分散開放型システムのすすめ

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電力自由化 発送電分離から始まる日本の再生 高橋洋著 ~自律分散開放型システムのすすめ

評者 中里 透 上智大学経済学部准教授

東日本大震災は、計画停電と電力使用制限という形で、被災地以外の地域にも大きな影響をもたらした。電力10社体制による電力の安定供給が困難になった現状を踏まえれば、これを機に電力供給のあり方を抜本的に見直すことが避けて通れない課題ということになるだろう。本書はこの問題を考えるうえで有益な示唆を与えてくれる。

本書で提案されている電力自由化のポイントは、発送電分離によって各電力事業者が公平に送電網を利用できるようにすることであり、それを通じて競争的で効率的な電力システムを構築することである。現状では、新規参入者が需要家に電力を販売するには「託送」という形で既存の電力会社から送電網を借りることが必要になるが、「託送の条件が必要以上に厳しく、手続きが透明性に欠ける」ため、事業者間で公正な競争が確保されていないと著者は言う。

本書の指摘の中で特に興味深いのは「自由化により市場が大きくなる結果、電力システム全体が安定的になる」という点だ。地域独占の見直しによって市場が統合され、卸電力市場が有効に機能するようになれば、分散型電源による電力システムのもとでも電力の安定供給が可能になるという著者の判断には十分な合理性がある。

震災後の計画停電で明らかになったのは、地域独占と発送電一貫体制を基本とする現行のシステムが、技術と組織運営の両面において「融通」のきかないものになってしまっているということだ。総括原価方式による電力料金の決定が高コスト構造をもたらしている可能性についても考慮が必要であろう。これらの点を踏まえると、本書に描かれた「自律分散開放型」の電力システムを、単なる絵空事と片付けてはならないように評者には思われる。

たかはし・ひろし
富士通総研経済研究所主任研究員、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、成城大学講師。東大法学部卒業。ソニー入社。タフツ大学フレッチャー大学院修了。内閣官房IT担当室主幹、東大大学院工学系研究科博士課程修了。

日本経済新聞出版社 1680円 236ページ

  

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