「肺に先天性障害」の中学生が生前に敢行した旅 修学旅行に付き添うツアーナースたち

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あるツアーナースがこんな話をしてくれた。

「関東にある、とある高校の修学旅行に付き添ったときのことです。行先は沖縄でした。修学旅行は思い出作りの場でもあるのですが、学習の一環でもある。だから、多くの学校は戦争記念館などの見学も、旅の行程に入れています。沖縄で、ひめゆりの塔に関連する平和祈念資料館を見学したときのこと、施設の外で待っていると、ひとりの生徒が泣きながら出てきたんです。

どうしたの、と聞くと、『肩に戦争で亡くなった人の霊がしがみついている』と言うのです。あとは泣きじゃくるだけ。どうしていいのかわからずにオロオロしていると、別のクラスを担当していた先輩ナースが飛んできて、『私がお祓いしてあげるね』と、バッグから小さなビニール袋に小分けした塩を取り出したんです。

そして泣きじゃくる生徒に向かって『これは沖縄の特別な塩だからね』と言い、その塩をひとつまみだけ、肩にパッパッと振りかけ、『これで大丈夫』と優しく笑いながら、生徒の背中をパンッと叩いたんです。そしたら、それまで泣きじゃくっていた生徒が顔をあげて、『ほんとだ、霊がいなくなった』って、笑顔に戻ってくれた。それ以来、修学旅行の付き添いでは、私も塩を持参するようになりました」

特別な場所で特別な体験をするのが修学旅行だ。思ってもみないようなことが起こる。ツアーナースには、その場その場での臨機応変な対応が求められるのだ。

ツアー全体の体調管理がナースの役目

生まれつき、肺に障害のある吉田貴明は、家族と学校のバックアップもあり、自分も修学旅行に参加することを決めた。双子の弟・文哉も、もちろん大賛成してくれた。

2人がいるクラスにツアーナースとして帯同することになったのは、前出の馬場看護師だ。

「担任の先生と、事前にミーティングをして、疾患のことや、日々の生活の様子についての聞き取りをしました。2人が通う中学校は岐阜県にあります。修学旅行の行先は東京の浅草と千葉のディズニーランド。主治医の先生とも連絡を取り、もしものことがあった場合に駆け込めるように、関東にある病院も紹介しておいてもらいました。担当するクラスには、吉田兄弟以外にも、精神的に少し不安定な生徒もいて、そうした注意事項についても、事前に担任の先生と話をしておきました」

出発の日は、早朝から準備が始まる。事前に受け取ってある注意事項に改めて目を通し、まずは学校に向かう。学校にはすでにバスが到着している。顔なじみの学校職員や、バスの運転手、帯同するカメラマンなどと挨拶を交わしながら、さり気なく彼らの体調についても聞き取りをする。

株式会社アテンダントナースのユニフォーム。遠くからでも目立つが、主張しすぎないデザインを心がけている
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