「肺に先天性障害」の中学生が生前に敢行した旅 修学旅行に付き添うツアーナースたち

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「私たちは看護師ですので、医師の指示がなければ医療行為を行うことはできません。薬を処方することももちろんだめです。ただ、旅行者本人が持参している薬などについて、適切な服用を見守ることは可能です。女子生徒は、鎮痛剤などの薬を飲み慣れているケースもあるのですが、男子生徒はそうしたところにわりと無頓着です。それでも、旅先で急な頭痛などに襲われることがあります。そうした場合は、保護者に連絡を取って、以前に服用したことのある銘柄の薬を現地で購入し、飲ませることもあります」(馬場看護師)

ナースを頼りにしているのは、生徒たちばかりではない。引率する学校職員の体調に目を光らせるのもツアーナースの仕事だ。

「先生方は、修学旅行が終わるまでずっと緊張しっぱなしです。24時間体制で、生徒たちのことを見守らないといけません。そんなプレッシャーから体調を崩される方も、もちろんいらっしゃいます。幸い、これまで大事に至った例は私の参加したツアーにはありませんでしたが、私たち添乗看護師は職員の方々の体調にも目を光らせます」(馬場看護師)

「スプラッシュマウンテン、乗れるかな」

中学校から、名古屋駅まではバス移動だ。生徒たちが、各クラスに分かれてバスに乗り込む。実際に、生徒たちの顔を見るのは、旅行の当日が初めてとなるケースがほとんどだ。生徒たちのリストを片手に、顔と名前を一致させる。

吉田貴明、文哉の双子の兄弟もきっちり確認できた。2人とも、体調に問題はなさそうだが、肺に障害のある兄の貴明は、荷物とは別に、小さなカートを引いてやってきた。中には酸素ボンベが入っている。

「このことについても、医師からの指示書がありました。貴明君は、激しい運動をしたり、緊張が高まったりすると、肺がうまく機能できずに、血中の酸素量が不足してしまうことがあります。そうした場合、酸素の吸入が必要になることもあるのです」(同前)

バスに乗り込むと、旅行会社の添乗員が、バスの運転手や帯同するカメラマンなどを紹介する。このときに、ツアーナースとして、初めて自己紹介することになる。

「名前と経歴を少し紹介して、いつでも気軽に相談してくださいね。といった感じで挨拶をします。ここで長々と注意事項を並べても、誰も聞いてくれませんからね(笑)」(同前)

バスは無事、名古屋駅に到着し、生徒たちは新幹線で東京に向かう。

「スプラッシュマウンテン、乗れるかな」

貴明はまだ少し不安そうだ。

「大丈夫だよ、ちゃんと作戦を考えているからさ」

双子の弟・文哉は笑って答えた。

「作戦ってなんだよ」

貴明は不思議そうに弟の顔を覗き込んだ。

「ま、到着してからのお楽しみだ」(後編に続く)

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末並 俊司 ライター

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すえなみ・しゅんじ / Shunji Suenami

福岡県生まれ。93年日本大学芸術学部を卒業後、テレビ番組制作会社に所属。09年からライターとして活動開始。両親の自宅介護をキッカケに介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)修了。現在、『週刊ポスト』を中心として取材・執筆を行っている。

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