金門島、中台の狭間で緊張関係だけではない深層 漁船転覆事故は決着、観光客解禁が次の焦点

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中国大陸に近接する金門群島と馬祖列島には、「小三通」と呼ばれる、台湾本島とは異なる中国大陸との往来の基準が適用されてきた。コロナ禍後、台湾本島と同様に、中国から金門・馬祖への渡航、特に観光客の渡航解禁はなかなかなされなかったが、中国政府は8月に入り、福建省の住民に限り馬祖への観光を解禁することを発表した。金門に馬祖が先行していたのは、他でもない「三無船」転覆事件の事後処理が長引いていたためである。

これに対し、8月下旬に金門選出の陳玉珍立法委員と金門県議会の洪允典議長(いずれも国民党籍)が率いる「金門県民意代表訪問団」が北京を訪問した。訪問団は国務院台湾事務弁公室の宋濤主任に対し、金門への観光解禁も解禁するよう訴えた。

中国政府はこれを前向きに検討しているようであるし、台湾政府の担当部局も金門・馬祖に中国人観光客が戻ってくることを歓迎している。9月に入り、金門島内では中国からの観光客の受け入れ再開に向けた準備が、着々と進んでいるようである。

中国に向き合う金門の複雑な想い

「三無船」転覆事件以降、中国政府は「禁止・制限水域」を否定する意思を明確化し、中国海警は金門周辺海域でのパトロールを常態化するなど、既成事実の積み重ねによる現状変更を進めようとしているように見える。他方で、金門は習近平政権が掲げる台湾との「融合発展」戦略の最前線でもあり、同政権は厦門と金門を一繋がりの地域として発展させていくことを志向している。

これに向き合う金門の人々のアイデンティティや利害関係は複雑である。金門は歴史的、環境的、経済的には台湾本島よりも中国大陸に近く、地域の選挙政治においても国民党への支持が圧倒的に強い。

しかし他方で、金門の人々の間において、政治体制の面では台湾本島と繋がる自由と民主主義への支持と帰属意識が根付いていることも事実である。また、金門島内においては、30代から40代を境目として、中国大陸や台湾本島への意識、その狭間にある金門という場所やそこに暮らす自己をどのように捉えるのかについて、世代間の相違も存在する。

「台湾有事」をめぐる議論との関係に加え、「三無船」転覆事件以降の事態の推移が尖閣諸島周辺の状況と似ていることから、日本における金門への認知度や注目度は高まった。しかし、現地に暮らす人々がどのようなアイデンティティを持ち、そこでどのような地域政治を繰り広げ、中国大陸とどのような関係を築いてきたのかを知ることなく、この地域で起きていることの深層を理解することはできないのである。

福田 円 法政大学教授

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ふくだ まどか / Madoka Fukuda

国際基督教大学教養学部卒、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、同後期博士課程単位取得退学。この間、台湾政治大学国際事務学院東亜研究所博士課程へ留学。博士(政策・メディア)。国士舘大学21世紀アジア学部専任講師、同准教授、法政大学法学部准教授を経て、2017年より現職。主著に『中国外交と台湾――「一つの中国」原則の起源』(慶應義塾大学出版会、2013年)、第25回アジア・太平洋賞特別賞。

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