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金門島、中台の狭間で緊張関係だけではない深層 漁船転覆事故は決着、観光客解禁が次の焦点

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2月に中国の漁船転覆事故が起きて緊張が高まった台湾が実効支配する金門島。ただ、現地住民の中国に対する思いは複雑でそれを理解しなければ情勢を正確には語れない。

金門島の浜辺にあるバリケードと厦門の夜景
かつては激戦が繰り広げられた金門島の浜辺に残る障害物。今では対岸にある厦門の夜景が輝く(写真:Lan Yik Fei/The New York Times)

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中国沖合に位置し、台湾側が実効支配する金門島。その近海で2024年2月に起きた「三無船(船名、船舶証書、船籍港登録のない不法船舶を指す)」転覆事件の処理の決着が7月末についた。金門と対岸の関係は、約半年にわたり続いた事件処理をめぐる緊張から、福建省からの観光客受け入れなど中国との交流拡大に焦点が移りつつある。

金門島周辺での中国海警の活動活発化は続いているものの、金門を単に「中国が力で現状変更を図ろうとしている地域」と見るのでは不十分である。「融合発展」というスローガンの下で行われる中国からのよりソフトな働きかけと、それによって揺れ動く金門の人々のアイデンティティにも注目すべきである。

事件の実務処理は速やかだった

2月半ば、1992年に台湾側が定め、中国側も黙認してきた金門諸島周囲の「禁止・制限水域」内で、中国から来た「三無船」が台湾の海巡署(海上保安庁に相当)の追尾中に転覆した。この転覆により、船舶の乗組員4名のうち2名が死亡した。

また、この船舶を追尾した海巡署の船舶は対応の過程を録画しておらず、対応に過失がないことを証明できなかった。金門島周辺での「禁止・制限水域」の成り立ちや最近の「緊張」については、当連載のなかで五十嵐隆幸氏が詳述しているので、そちらをご覧いただきたい。

金門はもともと中国大陸との距離が近く、現実の状況として当該海域では中台双方のさまざまな船が航行している。そのため、このような事態は決して想定外ではなかった。実際、生存していた乗組員の取り調べや中国大陸への移送などは、事件の発生後速やかに行われた。

また、転覆事件勃発直後から、金門と福建の双方の赤十字が窓口となり、生存者の引き渡し、死亡者の家族と台湾海巡署の事後協議、死亡者の葬儀や家族への慰問金支払いなどが行われた。これも、中台間で主権に関する認識の相違が存在するなかで、事態を人道的な問題として処理するための知恵であった。

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