台湾政治は「統一」か「独立」かで見られがちだが、実際は強い主張が意識される場面は少ない。それを強みに躍進した新興政党のひとつがスキャンダルで勢いを失っている。
台湾の第3政党、台湾民衆党がスキャンダルで動揺している。同党トップの柯文哲氏に、2024年1月の総統選挙で集めた政治資金で不適切な取り扱いがあるとの疑いが出た。台北地検が捜査を開始している。
不正行為を調査する監察院が発表した会計報告では約916万台湾元(約4000万円)の支出不一致や、柯氏の選対本部財務長の妹が社長を務める企業への1300万元のライセンス料支払いに不透明さがあると指摘された。柯氏らは会計士自身の意思による不適切な会計処理や申告漏れがあったことを認めたものの、全支出に根拠があると主張している。
わずか5年で急成長した第3勢力
この問題を受け、民衆党は関係者の処分を決定。関係者は文書偽造罪の疑いで台北地検の取り調べを受けている。本連載「緊迫 台湾情勢」の執筆担当者でもある東京外国語大学の小笠原欣幸名誉教授は「2大政党制を覆す柯氏の挑戦は終わった」と日本経済新聞の取材に答えている。
民衆党は2024年の総統・立法委員(国会議員)選挙において総統選で26%、比例代表の政党票で22%の得票率をそれぞれ獲得し、台湾民主化以降の第3政党として歴史的な躍進を遂げた。しかも、結党からわずか5年だ。
総統選の序盤戦が始まった2023年5月には2大政党の一角をなす国民党を支持率で抜き去った。その国民党との野党連合の議論が盛り上がった2023年11月には支持率が25.3%にまで上昇し、調査対象の政党の中で最も高い支持率を獲得した。
この時の支持率の上昇は、政権交代を可能とする野党連合の実現を少なくない有権者が期待したためと解釈できる。ただ、支持層やイデオロギーの違いから現実的には野党連合は困難だった。
民衆党の主な支持者は、中国とのサービス貿易協定に反対して2014年に生じた「ひまわり運動」以降の若者世代だ。彼らは台湾の主体性を強調する「台湾アイデンティティ」を重視する傾向がある。一方で国民党支持者は中国ナショナリズムを信奉する中高年層が中心で、両者の政治的立場の隔たりが大きい。
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