台湾で「独立」「統一」以外で躍進した新政党の失速 再び2大政党制に戻り、民進党の有利が続く

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実際、民衆党は2024年の総統・立法委員選挙では前回選挙で2大政党に投票した層からそれぞれ票を集めたが、台湾ナショナリズムをもつ民進党に考え方が近い人たちから流れた票が顕著だった。世代的には主に10代から30代の若者層から強い支持を得ており、イデオロギー的に中道を掲げることで浮動票を獲得したと言われている。

柯文哲支持の若者世代の政治的態度には3つの特徴がある。

党派的なこだわりよりも政権交代を当然視すること、長期政権を実現してエスタブリッシュメント化した民進党政権に対して批判を強めていること、そして中国の脅威認識について比較的抑制的かつ中立的であることだ。

中道、中間層をうまく取り込んだ

若者が中国の脅威に過度に反応しない理由としては、蔡英文政権下で欧米や日本との関係を強化した外交政策に満足しており、現行の体制に対する自信を強めている可能性がある。あるいはTikTokなどのSNSを通じて、中国発のポップカルチャーに触れ、4年前の香港問題の時に盛り上がった中国への拒否反応を減少させているとも考えられ、この点はさらに分析が必要となる。

台湾の中央研究院社会学研究所に在籍する呉介民研究員の調査によると、多くの台湾人が長期的に現状維持を続けるのは困難だと認識している。2022年の調査では、回答者の32%が台湾は最終的に中国に併合されると考え、46%が最終的には独立すると予想し、現状を維持し続けられると考える人はわずか15%だった。

一方で、台湾の大手経済誌『天下雑誌』の調査では、台湾有事が起きる懸念について民衆党支持者は民進党と国民党のそれぞれの支持者の中間に位置していた(民進党支持者35.2%、国民党支持者64.3%、民衆党支持者は45.8%)。つまり、民衆党の支持層は、中国の脅威に対して過度に悲観的でも楽観的でもないといえる。

このような中道的な民意の広がりをうまく掴んだことが、民衆党が支持を伸ばした要因だった。台湾社会では前述の「台湾アイデンティティ」が浸透しており、大多数の市民が現状維持や事実上の独立状態を支持している。

したがって主要政党間の対中政策の差異も縮小。主な相違は台湾が中国の一部であるとする「一つの中国」について中国側と口頭で認めたとされる「92年コンセンサス」の解釈だ。

国民党は「一つの中国」の「中国」について台湾側は「中華民国」、中国側は「中華人民共和国」だとそれぞれ主張する「一中各表」の立場に立って「92年コンセンサス」を認める。一方で民進党はコンセンサスの存在自体を否定する。

ただ、台湾の主要政党はすべて中国が主張する「一国二制度」に反対し、対米・対日関係重視と国防力強化を共通して掲げる。その中で民衆党は穏健な民意をうまく掴み、中間層の支持を獲得して躍進したのである。

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