台湾・国民党への日本の懸念と期待は行きすぎだ 見るべきは「政党」ではなく台湾の「民意」だ

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中国国民党(国民党)は「親中政党」だとの警戒や、逆に緊張緩和の役割を果たすと期待する見方が日本にはあるが、いずれも一面的な見方だ。

選挙集会に登場した国民党の総統候補・侯友宜氏。台湾の中華民国を守り、一国二制度は受け入れないと明言する(写真・Bloomberg)

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台湾の総統選挙まで残すところあと2日。同日には立法委員(国会議員)選挙も行われ、それぞれの結果はアジア太平洋地域の今後4年にわたって大きな影響を与える。

現状、総統選挙では民進党の頼清徳候補がリードする。国民党の侯友宜候補は12月末まで追い上げていたものの、最終盤で伸び悩んでいる。このままいけば、頼氏が逃げ切って民進党政権が台湾の民主政治史で初めて、同一政党が連続3期、政権を担うことになるだろう。

一方、立法委員選挙で民進党は苦戦しており、立法院(国会)での過半数割れは必至である。ただ、国民党も単独過半数はとれない見込みだ。

2大政党はどちらが議会第1党となるかを競り合っているが、第3政党の柯文哲氏が率いる台湾民衆党が立法院でキャスティングボートを握る立場になるとみられる。

日本の一部にある国民党への不信と期待

過去8年間は民進党が立法院でも単独過半数をもっていたが、今後は政権と議会の間でねじれ関係が発生すると予想される。民進党は国民党などの野党にこれまで以上の配慮を示しながら政策を進めなければいけなくなるだろう。また選挙前に突発的な事件の発生やスキャンダルの発覚、外的要因などで現時点での予想が覆り、国民党が政権をとる可能性もまだある。

そのため、日本を含め世界各国は選挙結果によってこれまで蔡英文政権が続けてきた台湾の対中抑止政策や国防強化の方向性に変更が出て、台湾海峡の情勢が不安定化すると懸念する。また日本の一部保守派からは国民党政権の誕生や同党の勢力拡大によって、台湾の親中化が進み、中国にのみ込まれるとの見方もたびたび出される。

逆に日本の極端な一部左派は、民進党の勢力が弱まり、国民党に政権交代すれば、台湾海峡の情勢は安定化すると主張する。中国は民進党を「台湾独立勢力だ」とし、頼清徳候補を危険な分離主義者と見なしている。日本の一部左派は中国側の見方に沿って台湾海峡の緊張は民進党側に責任があり、国民党政権になれば中台間で対話の機運がうまれて緊張が緩和するはずだと期待する。

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