圧倒的な強さを誇る台湾の半導体産業だが、その半導体依存が台湾の長期的な成長に悪影響との議論もある。
「台湾は『オランダ病』に陥りつつあるのではないか」。2021年頃から今にいたるまでこの議論が台湾で続いている。
「オランダ病」とは、1960年代に北海で天然ガス田が発見されたことに起因するオランダ製造業の低迷を指す。天然ガスの大量輸出により貿易黒字が拡大した結果、為替レートが急上昇し、オランダで製造業の輸出・生産が長期にわたり伸び悩んだのである。
この現象は1977年にイギリスの経済誌『エコノミスト』によって「オランダ病」と名付けられた。以後、天然資源や農産品の輸出に強く依存した新興国の経済問題を指摘する際にも使われてきた。
半導体輸出急増でほかの製造業に支障?
しかし、台湾は鉱物資源に乏しく、経済に占める農林水産業のシェアも1.5%に過ぎない(2023年)。なぜ台湾で「オランダ病」が懸念されているのか。それは半導体輸出の急増が他の製造業の発展に支障を来しているとの声が出てきているからである。
「オランダ病」の発症メカニズムは次の2つであるとされる。
ひとつは「資源移転効果」である。例えばA産業で輸出ブームが起こると、その他の産業はA産業に労働力を奪われ、賃金上昇圧力にさらされる。その結果、その他の産業は利益率の低下、ひいては退出を迫られる。これが「資源移転効果」である。
もうひとつは「支出効果」である。A産業の輸出ブームで収入が増えると、その他の産業に対する支出も拡大する。しかし、その影響は不均一である。サービス産業はその恩恵を受けやすい。サービスは基本的に非貿易財だからだ。海外との競争にさらされずに需要増加の恩恵を受けられる。
一方、A産業以外の貿易財産業はむしろマイナスの影響を受ける可能性がある。支出増の恩恵を受けたサービス産業の賃金上昇によって海外よりも国内の物価上昇率が高まり、実質為替レートが上昇するからである。
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