台湾の人気観光スポットで名物パフォーマンスの形が変わった。その背景には日本でも評価が難しい蔣介石への複雑な台湾社会の姿勢が表れている。
夏休みで台湾に旅行するという人たちも多いだろう。中心都市・台北市の人気観光スポットのひとつに「中正紀念堂」がある。これはかつて中華民国総統として台湾政治の頂点に長く君臨してきた蔣介石を顕彰するため、1980年に完成した施設である。
施設名にある「中正」は蔣介石の名であり、台湾では蔣中正と一般的に呼ばれている。日本をはじめ世界で知られる「介石」は彼の字だ。
中正紀念堂は台北市中心部にある。広大な敷地に巨大なホールが設けられ、そのなかに蔣介石の巨大な銅像が置かれている。その護衛のため、ホール内で微動だにせず立つ国軍の儀仗兵が1時間に1回おこなう交代時のパフォーマンスは、台北観光の名物として知られてきた。
政治争点となった人気観光スポット
この儀仗兵によるホールでの立哨任務が2024年7月に廃止された。代わりに、同月15日より、ホール外の広場において行進パフォーマンスがおこなわれることになった。
この決定を下したのは、民主進歩党(民進党)・頼清徳政権下の文化部(文化省)である。1990年代に政治体制の民主化を遂げた台湾では、2000年に中国国民党から民進党への政権交代がおこると、かつての指導者である蔣介石に対する個人崇拝の見直しが始まった。
2008年から2016年にかけては国民党が政権を奪還したため揺り戻しもあったが、2016年から2024年の民進党・蔡英文政権下では国民党一党支配時代に発生した政治迫害等の問題に対する真相究明のための研究が推進された。この間、中正紀念堂という空間の位置づけをどう改革するかは、重要な政治争点のひとつとなってきた。
今回の儀仗兵のパフォーマンスに関する変更は、蔣介石の個人崇拝を否定しつつ、ホール外の広場には価値を見出す民進党政権の方針に沿ったものであるといえる。現在は「自由広場」と呼ばれているこの広場は1990年代初頭の政治改革を求める学生運動など台湾社会の変革を促す市民活動の舞台となってきた。民進党が評価するのは台湾の民主と自由を求める歴史がこの広場に刻まれているからである。
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