半導体依存を強める台湾は「オランダ病」なのか 激しい人材獲得競争、産業の多様化も必要だ

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どういうことか。仮に、名目為替レートが1ドル=100円のまま、アメリカの物価上昇率が0%、日本の物価上昇率が10%となったとしよう。すると、1ドルには100÷1.1=90.9円ほどの価値しかないことになる。実質的な円高である。

その結果、A産業以外の貿易財産業は自国通貨高の影響を受け、輸入品との競争に負けてしまう。せっかく国内で需要が増えたにもかかわらず、その恩恵を受けられないばかりか、むしろ悪影響を被ることになる。また、A産業の輸出ブームによる貿易黒字の拡大も自国通貨に上昇圧力をかける。それもその他の貿易財の輸出競争力を低下させる。

では、台湾で実際に「オランダ病」は起こっているのだろうか。まず半導体輸出の状況を確認しよう。

実質実効為替レートは2022年1月がピーク

台湾の半導体輸出が20%を超える高い伸びを記録し始めたのは2020年1~3月期からである(米ドル建て、図1)。その後、コロナを背景としたリモート需要の高まりやコロナからの世界経済の回復が追い風となり、2022年にかけて半導体輸出の非常に高い伸びが続いた。

台湾の半導体輸出の伸び率

 

では「支出効果」のカギを握る為替レートはどう動いたのか。確かに半導体輸出の活発化を背景に台湾の実質実効為替レートは上昇した(図2)。しかし、上昇幅はそれほど大きなものではなかった。2020年1月から2022年1月の間に5.9%上昇したにすぎない。

台湾の実質実効為替レート推移

 

日本の場合には、2年足らずの間に実質実効為替レートが2~3割増価することも稀ではない。また、台湾の実質実効為替レートは2022年1月をピークに下落基調をたどっている。2024年5月現在、2020年初頭の水準にまで落ちている。

台湾の主要輸出産業の輸出競争力が顕著に落ちたとも言い難い。半導体以外の台湾の主要輸出製品が世界輸出総額に占めるシェアをみると、少なくとも2022年まではおおむね横ばいで推移している(表1)。

IT・AV機器(電子部品を除く)に至っては、2019年の4.1%から2022年には6.3%へとシェアを伸ばしている。米中対立を背景にネットワーク機器やサーバーの生産が中国から台湾に戻ったうえに、AIサーバー需要が高まっているからである。

台湾の主要輸出製品の世界輸出総額に占めるシェア
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