金門島、中台の狭間で緊張関係だけではない深層 漁船転覆事故は決着、観光客解禁が次の焦点

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この間の中国側の政策決定については不明な部分が多いが、本件への中国側の対応は2月下旬に次第に強硬化した。

おそらく、これは沈没した船舶が近年中国国内で問題視されている「三無船」であったことに加え、事件のタイミングが台湾総統選挙後、蔡英文政権から頼清徳政権への政権移行期間であったこととも関係していたと考えられる。

国務院台湾事務弁公室は、事件勃発当初から台湾海巡署の対応を非難していたが、次第にこの海域は「金門・厦門地域の伝統的な漁場」であり、黙認していた台湾側の「禁止・制限水域」などは存在しないという論調を強めた。また、中国海警局は事件の数日後から「金門・厦門海域」でのパトロールを常態化すると発表し、実際にパトロールの範囲を拡大し、強度を強めた。

そして、事件の事後処理に関しても、生存者の引き渡し時に中国側赤十字が引き渡し証書への署名を拒んだり、帰国した生存者が台湾側の対応を激しく批判したり、遺族が検視内容に納得できないという理由で初七日の法要を欠席したりした。その後、遺族は台湾側に、対応における非を認めて正式な謝罪をすること、遺体や事故船を返還することなどを求め、協議は難航した。

5月20日の頼清徳総統就任を跨ぎ、本件に関する中台間の調整やコミュニケーションは、野党・国民党の働きかけも加わるかたちで続いた。そして7月末、ようやく事件の処理に関する協議が合意にいたった。

中国からの観光客解禁が話題に

金門島で行われた最終協議は非公開で、合意内容も公表されていないが、協議後に双方は死亡者を弔問し、遺族には150万人民元の弔慰金が支払われた。また、遺体と拘留された船舶は中国側に返還された。謝罪について、台湾当局はすでに海巡署の船舶が対応を録画する態勢を整えていなかったことについての謝罪のみを行っており、最終的にもこの線で話をまとめたものと推測できる。

「三無船」転覆事件の事後処理が一段落すると、対岸の福建省から金門島への観光客渡航の解禁が話題にのぼりはじめた。現在、中国と台湾の間の人的往来は、コロナ禍による中断から完全に回復しているわけではない。そもそも、コロナ禍以前から、中国政府は台湾への経済圧力の一部として中国から台湾への観光客渡航を制限する傾向を強めていた。

コロナ禍によって、人的往来がほぼ完全に中断された後、中国政府は選択的にそれらを回復させている。その結果、現時点において、台湾市民が中国へ渡航することは比較的自由であるが、中国市民の台湾への渡航は観光客に限らず、中台双方の当局から個別に許可されたケースに限定されている。

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