それにしてもいったいなぜこうも身の置きどころもないようなことになったのかと、心を暗く搔き乱して悩み、枕も浮くほどの涙を、だれのせいにもしようがなく、また泣いている。少しばかり病状も落ち着いたように見え、人々がそばを離れたその隙に、督の君は姫宮に手紙を書く。
「いよいよ命も果てようかという私のことは、自然とお耳に入っていると思いますが、どうなっているのかとそれだけでもお気に留めてくださらないのは、もっともなこととはいえ、まことに情けなく思います」などと書くのにも、ひどく手が震えるので、思うこともすべて書けずに、
「今はとて燃(も)えむ煙(けぶり)もむすぼほれ絶えぬ思ひのなほや残らむ
(今これまでと私を葬る炎も燃えくすぶって、いつまでもあきらめきれない恋の火だけがこの世に残り続けるでしょう)
どうか、なんとあわれな……、とだけでも思ってください。そのお言葉に心を落ち着けて、みずからさまよう闇の道を照らす光といたします」と書く。
本当にこれが最後になるかも
小侍従(こじじゅう)にも、なお性懲りもなく、あわれを誘うことをあれこれと書いて寄こす。
「私から今一度、あなたに話したいことがある」と督の君が言うので、小侍従も、幼い頃から縁あって督の君の邸(やしき)に出入りしては、馴染み深い人ではあるので、大それた恋心にはうんざりしていたものの、もう最後だと聞くとたいそう悲しくて、泣く泣く姫宮に、
「やはりお返事なさいませ。本当にこれが最後になるかもしれません」と言う。
「私の命も今日か明日かというような気がして、なんとなく心細いのだから、おかわいそうにとは思います。でもあの人とのことはつくづく情けなくて、もう懲り懲りなので、とてもその気にはなれません」と、姫宮はどうしても返事を書こうとしない。
そう言い張るほど、姫宮は性格がどっしりと強いわけではないのですが、どうも気後れしてしまう光君の機嫌が折々悪いことが、それはもうおそろしく、やりきれない思いなのでしょう。
けれども小侍従が硯(すずり)を用意して催促すると、しぶしぶながら返事を書く。小侍従はそれを受け取り、人目につかないように、宵闇に紛れて督の君のところへ向かう。
次の話を読む:9月8日配信予定
*小見出しなどはWeb掲載のために加えたものです
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