A社の場合は、伝統的に業務の標準化を徹底していました。
要資格の業務以外は、属人化を排除し、社員の多能工化が定着していたのです。業務移管がスムースに進んだことが「効果計算のトリック」に惑わされずにすんだ成功要因でした。
ちなみに余剰となった50人については、事業部門や子会社の「現場のスタッフ機能の高度化」要員として、異動先のコスト負担はなしで異動させることができました。
ただし、事業部門の現場のスタッフ機能の高度化が、A社のボトムラインにどのように効いたかの因果関係は、いまだに明らかになっていません。
A社がこの「守りのDX」で、本来の狙いである「コスト削減」に成功したのかどうかは、立場によって判断が分かれるところですし、今後も結論は出ないでしょう。
【理由2】「解雇なしのコスト減」は不可能
DXの効果が出ない理由の2つ目は、従業員の解雇ができない以上、コストは減らないという問題です。
「効果計算のトリック」を首尾よく乗り越えたとしても、削減する従業員をどう選び、どう処遇するのかという悩ましい問題が残ります。
そして、削減可能な人数を解雇できないのならば、コストは減りません。
となると経営者や株主の視点からは、「『守りのDX』の効果算定はまやかしではないか」となってしまうのです。
「守りのDX」に、コンサルタント報酬やデジタル系のツールなどの導入でそれなりの投資・コストをかけている場合には、なおさらです。
ちなみに、OECDのなかで日本の解雇しにくさは28位。統計上ではそれほど上位に位置していません。
しかし実際には、依然として日本企業では従業員を解雇することのハードルは高いままです。
安易に解雇という手段をとることが、賢い経営手法ではないことも間違いないでしょう。
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