シャープの3200人削減は「的外れ」な再建策だ 人員削減の前にやるべきことがある
シャープが赤字に苦しむ要因はどこにあるのか。従業員給与や研究開発費、広告宣伝費などの販売管理費を加味せずに、製造・販売する商品にどれぐらいのおカネがかかっているかを示す製造原価に着目してみよう。
シャープの製造原価率は電機大手4社の中で最も高く突出しており、その裏返しで粗利(売上総利益)も少ない。シャープ以外の電機大手3社は、売上総利益率が2ケタ台なのに対し、シャープは6.0%にとどまっている。ソニーの半分以下、パナソニックやNECの3分の1にも満たない。
つまり、シャープの不振要因はずばり、製造原価の高さにある。前述したように、製造原価には派遣・請負などの臨時従業員(非正規社員)を含む製造ラインの賃金が一部組み込まれているとみられるが、それを加味してもシャープの製造原価率は高すぎる。製造原価はラインの人件費を除けば、材料費のほかに家賃や光熱費などの直接経費、間接的な費用が含まれる。これが人件費よりもはるかに重い負担になっているとみられるのだ。
シャープが今、最優先で行うべきことは原材料の調達や物流の見直し、製造工程の改善などによる、原価低減活動なのではないだろうか。仮に製造原価を1%でも落とせれば200億円以上の収益改善効果がある。人員削減によって2016年3月期に得られると会社が試算している150億円をはるかに上回る成果が得られる。
むしろ、人員削減はシャープにとって逆効果となる可能性もある。人を減らすと1人当たりの業務負荷が高まるのは自明の理であり、残る社員は日々の実務をこなすだけで精いっぱいになってしまうかもしれない。その結果、将来のシャープにとって本当に必要な、原価低減のための施策立案や実行が、後回しや手つかずになってしまうことが懸念される。
キーマンはベテラン社員
今回の希望退職は、45歳から59歳を対象としているということであるが、会社のことを知り尽くしているベテラン社員こそが、「どこに無駄があるのか」「何を改善すべきか」を提案できる、原価低減活動のキーマンになりえる。
それにシャープは、液晶テレビのアクオスはもちろんのこと、プラズマクラスターやヘルシオといった、消費者に訴求する商品を数多く生み出してきた。これらの商品開発をリードしてきたのも、今回の希望退職の対象になっている中高年世代であろう。過去の成功体験にすがるのはマイナスな面もあるものの、シャープのような製造業の会社は特に、経験やノウハウの蓄積を持つベテラン社員のノウハウや人脈などが、会社にとって目に見えない貴重な財産でもある。人を減らすことで、その分失われてしまう競争力もあるのだ。
3200人余りを直ちに削減しなければ会社が倒産するしかなくなるという状況でもない。シャープは人的な側面では、同業他社よりもすでに効率的な態勢を確立している。今回の人員削減が、目先の収益向上や取引金融機関に対するポーズ、投資家への短期的な株価対策などのためだとしたら、その結果、シャープが失う貴重な「人財」と秤に掛けた価値はいかほどのものか。決して数字では表せない「やる気」「モチベーション」といった人的な力が弱まっていくことも避けられず、悪循環にはまっていく恐れすらある。
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