窪田:その結果、もともと遠くを見るために設計されていた網膜上でピントが合わせづらくなり、ピントを合わせるために眼軸が伸びてしまうケースが増えました。こうして「目の奥行き」が伸びてしまった状態が「近視」と呼ばれます。目の奥行きが伸びることで、本来まん丸のはずの眼球が卵やナスのような形に変形していきます。
高濱:卵やナスのような形に? それは初めて聞きました。
窪田:先ほどのマサイ族の例で、子どもが学校に通い始めると視力が急激に落ちるのは、教室の黒板や手元の教科書を見ることが増えるからなのです。つまり、視力は遺伝よりも環境に左右されることがおわかりいただけるかと思います。
「子どもの近視」を抑制できた海外事例
高濱:生活の都市化は現代社会では避けられない中、前回(「メガネの子が増えた」のはスマホが原因ではない)窪田先生が紹介された「近視抑制」の海外事例が気になる親御さんは多いと思います。台湾の小学校では、実際に効果がデータとして明確に出ているそうですね。もう少し詳しく教えてもらえますか。
窪田:一般的な傾向として、アジア人には近視が多く、台湾でも多くの子どもたちが近視を抱えています。台湾は国としてこの現状を深刻に受け止め、国策として2010年から「子どもの屋外活動を1日2時間確保しなければならない」という制度を導入しました。机に向かって勉強することも大事ですが、それ以上に将来の国民の健康を重視したわけですね。
実際に、休み時間は教室の電気を消して外遊びを促したり、美術などの一部の授業を屋外で実施したりすることで、小学生に1日2時間屋外で過ごさせることを達成しているということです。
高濱:国を挙げて学校まで巻き込んで実施しているところに本気度を感じますね。日本の学校でのカリキュラムの中で外遊びの時間をそこまで確保するのは難しいかもしれません。
外遊びを推奨している私たちの学習塾では、夏休みなど、学校が長期休みになる時期に、泊りがけで行ける野外体験プログラムを提供していますが、毎年大人気です。