病院が「患者さま」と呼ぶのをやめ始めた深い事情 横行する「カスハラ」看護師の手を舐める患者も

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医療現場では、患者やその家族の言動がカスハラかそうではないかの判断が難しいケースもある。認知症などの症状によるものかもしれないからだ。高齢化により、医療が在宅でも提供されるようになったため、カスハラが訪問看護などの密室で起きると、実態の把握はより難しい。

患者を「〇〇さま」と呼ぶようになったきっかけは、厚生労働省が2001年11月に通知した「国立病院・療養所における医療サービスの質の向上に関する指針」。ここで推奨され、全国的に広まったとの説がある。

指針では、患者に対するていねいな接遇を実践するために、「原則として、姓(名)にさまを付することとするが、診療や検査等、諸般の状況に応じ、適宜他の呼称方法(例:〇〇さん)を用いる」と記された。

この指針により、病院関係者が患者への接遇の仕方を模索するなかで、よりていねいな呼称にするのがいいだろうと、「〇〇さま」を使わなくてはならないというムードが醸成された。ある病院関係者に聞くと、その頃から公文書には「患者」ではなく、「患者さま」と書くようになったと、当時を振り返る。

カスハラの対象は看護師

医療現場のカスハラでは圧倒的に女性の被害が多い。看護師は女性が多いからという背景もあるだろう。

カスハラによる精神障害は2023年9月、国の労働災害の認定基準に追加された。2023年の最新データによると、精神障害による労災請求件数は全産業では3575件、業種別では「医療、福祉」が888件で、前年より4割増えている。次いで多いのは「製造業」で499件、「卸売業、小売業」で491件なので、「医療、福祉」が突出しているのがわかる。

日本看護協会は、看護職員が暴力やハラスメントを受けたかどうか実態を調査している。「病院および有床診療所における看護実態調査」(2019年)によると、全国の病院8300施設の看護職員を対象に、1年間に受けた暴力・ハラスメントの内容を複数回答で聞いたところ、精神的な攻撃(24.9%)が最も多く、次いで身体的な攻撃(17.9%)となった。

日本看護協会で労働政策を担当する橋本美穂常任理事は、こう話す。

「協会として、人々の生活を支えるために必要不可欠なエッセンシャルワーカーである看護師を守っていくために、実態を把握するよう努めている。出産・育児で一時的に現場を離れた看護師は戻ってくる可能性があるが、カスハラで傷ついた看護師は、対応を間違えると二度と現場に戻ってこない。貴重な人材を失うことになるので、カスハラ対策は切羽詰まった問題になっている」

取材に応じる日本看護協会の橋本美穂常任理事(写真:筆者撮影)
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