病院が「患者さま」と呼ぶのをやめ始めた深い事情 横行する「カスハラ」看護師の手を舐める患者も
また、患者の自宅などを訪れる訪問看護師の3~4人に1人の割合で、身体・精神的、セクシャルハラスメントを受けていたことがわかった。
全国訪問看護事業協会が2019年3月に発表した「訪問看護師が利用者・家族から受ける暴力に関する調査研究事業報告書」では、3245人に過去1年で利用者・家族から暴力などを受けたかどうか聞くと、精神的暴力が36.1%、セクシャルハラスメントが31.7%、身体的暴力が28.8%という結果だった。
橋本常任理事は、「看護師はどうしても患者や施設利用者に密着してケアすることが多いので、不必要に触られたりだとか、採血の際に手を舐められたりだとかの訴えもある。病棟の夜勤帯や在宅訪問時など、比較的周りに人がいないところで起きている」と話す。
加えて、看護師が業務に支障の出るカスハラに遭ったことを上司や施設管理者などに報告しても、「お客さまなのだから我慢しろ」などと、何も対策を講じることなく勤務を続けさせることも多いという。
カスハラ対策をする病院が9割
日本看護協会は、病院などの施設にカスハラ対策を講じているかどうかも調査している。
2019年の病院看護実態調査によると、3385病院のうち対策をとっている病院が72.2%(2443病院)、準備中の病院が16.7%(565病院)で、9割近くがカスハラ対策に取り組んでいる。
例えば、新潟県の県立中央病院やがんセンター新潟病院、新発田(しばた)病院、十日町病院など11病院を運営する同県病院局は、今年5月、ペイシェントハラスメント対策指針を整備した。
対策指針をとりまとめた背景には、各病院において、患者から職員に対して過度な迷惑行為が発生していることがある。女性職員への嫌がらせや、病院内の備品を投げつけるなどの迷惑行為により、職場環境が悪化し、パフォーマンスが低下する懸念があったからだ。
対策指針には、▽組織的に対応する▽毅然と対応する▽警察への相談・通報をためらわない、を3本の柱とした。
同県病院局は「組織的に対応すると明記したことで、職員の安心感につながることを期待している」と説明。そのうえでこう述べる。
「診療拒否については、弁護士に法的観点から助言を得たうえで記載した。医療行為は、医療者側と患者側の信頼関係を基礎とするとの考え方があるため、患者側の迷惑行為により信頼関係が喪失したときには、医療者側が診療拒否することも可能だと考えている」
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