相続増税対策の「落とし穴」に気をつけよ 死後の手続きは膨大だ

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実際に相続が発生し、相続税申告の相談にレガシィを訪れた件数は今年3~5月の3カ月間で前年同期の1.7倍。「四十九日法要が済んで落ち着いてから」などと言っていられないのか、相談に訪れるのは死後60日以内での相談が54.4%(前年同期は43.3%)に増えている。法改正によって新たに相続税がかかる人が不安になって相談にくる例が多いという。

今のところ「相続増税でこんなに大変」といった実例の報道はあまり目にしないが、それは相続税の申告期限が死亡から10カ月後だからだ。たとえば、1月1日に亡くなった人なら、11月1日が申告期限となる。法改正後の新しい申告書類の書式がまだできていないこともあり、あわてて申告しない世帯が多い様子。これから秋にかけて、各世帯の申告準備が本格化するのだろう。

対策方法は?

では、実際に課税対象となった場合、どうすればいいのか。増税もあり、さまざまな相続対策が出てきている。主には相続「税」対策であり、資産を減らさずに子孫に引き継ぐため、課税額を最小限に抑えるものだ。ただ、単に税額を減らすテクニックだけに走りすぎると、落とし穴も待っている。

相続課税を強化する日本の税務当局は、海外への資産移転に対するチェックを年々厳しくしている。現在は節税効果が高いとされるタワーマンションや社団法人も、租税回避とみなされたり、逆に課税強化されたりするリスクもあるからだ。

被相続人の遺志に沿った形で財産を遺族に分配させるには、あらかじめ生前に遺言を書くのが確実だ。ただ、書いてから年数が経っていれば、株価や地価の変動で資産構成が大きく変化していることもありうる。公証役場で作成する公正証書遺言は有料で、書き直しにもコストがかかるが、資産構成が変動したなら見直したほうがよい。

「小規模宅地等の特例」を利用しようと、実家を二世帯住宅に改築して、母と子の家族が一緒に暮らし始めたが、嫁しゅうとめの関係がこじれて妻と子どもは別居状態、という笑えない話も現実にある。

特例を使わずに、家族の資産で母と子の別々の居宅を新築すれば、現預金で持っているより評価額は下がるし、母の死後は実家を賃貸にする、あるいは売却するといったアクションも採りやすくなる。財産を賢く相続するためにも、家族の意見のすり合わせが肝心だ。

相続課税がなかったとしても、身近な人が亡くなった後の手続きや届出は膨大な手間がかかる。世帯主変更の手続きに始まり、公共料金や電話、インターネットなどの支払い方法の変更や停止、遺族年金の受給手続きなども必要だ。

特に、インターネット時代の新たな相続として、故人の金融資産(ネット上で総合管理している人など)や、フェイスブックなどSNSアカウントをどう引き継ぐべきか、といった問題もある。

チェックリストを作って地道に処理するしかないが、遺族も仕事の合間に作業する場合が多く、1月に亡くなった人の名義変更手続きがまだ完了していない、というような話も聞く。

家族の資産情報を生前から把握していることが、二次相続まで見据えた損をしない「賢い相続」、遺族がもめない「円満な相続」につながる。「わが家は相続税大丈夫かな」「ネット口座のパスワードとか、万が一のときはどう確認する?」と切り出してみるとやがて、財産を残す親の思い、引き継ぐ子の願いも確認し合えるはずだ。暑い夏休み、久しぶりに集まる実家で、ざっくばらんに語り合ってみよう。

山川 清弘 東洋経済『株式ウイークリー』編集長兼「会社四季報オンライン」副編集長

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やまかわ きよひろ / Kiyohiro Yamakawa

1967年、東京都生まれ。91年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。東洋経済新報社に入社後、記者として放送、ゼネコン、銀行、コンビニ、旅行など担当。98~99年、英オックスフォード大学に留学(ロイター・フェロー)。『会社四季報プロ500』編集長、『会社四季報』副編集長、『週刊東洋経済プラス』編集長などを経て現職。日本証券アナリスト協会認定アナリスト、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト。著書に『世界のメディア王 マードックの謎』(今井澂氏との共著、東洋経済新報社)、『ホテル御三家 帝国ホテル、オークラ、ニューオータニ』(幻冬舎新書)など。

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