第2点の課題としてあげられるのが、投資資金の流入の不足です。
米国のベンチャーキャピタルの投資金額は年間2~3兆円、日本のベンチャーキャピタルの投資金額は年間1000~2000億円と大きな差が出ています。ファンド規模や1件あたりの投資金額にも大差があります。この原因は、ベンチャーファンドに流れ込む投資資金の量の差にあります。キャピタリスト人材の不足が解決されることが大前提ですが、事業会社や機関投資家の資金の流入が増えるようになることが、今後、重要な課題になります。
事業会社をはじめとする企業からのファンドへの資金供給については、2014年に「企業のベンチャー投資促進税制」が創設され、企業などがファンドに出資し、ファンド経由でベンチャー投資した額の8割が税制優遇の対象になりました。そのため大企業などからベンチャーキャピタルへ、資金の流れの増加へのインセンティブになっています。
機関投資家については、ベンチャーファンドが投資対象のアセットクラスとして認識され、投資検討されるよう、ベンチャーキャピタルの投資リターンのデータを整備し、どのキャピタルであればどれくらいのリターンが出せるかを示すことが重要となっています。また、機関投資家への提案や報告のフォーマットの整備も必要となります。
3点目の課題が、適切な投資ルールの浸透を行うことです。
今日の大部分のベンチャー投資は、適切な投資契約で実施されているのですが、一部でベンチャーキャピタルと起業家との間で、フェアでない投資契約が結ばれていると聞くことがあります。キャピタル側が、小さな持ち分しか持たないのに、過度にエグジット時の株式売却を限定する、ダウンサイドのリスクを起業家に押し付ける、という事例が見受けられると言われています。ほとんどすべてが、フェアプレーで企業を育成するキャピタルであっても、ごく一部の不適切なプレーヤーの存在で、業界全体のイメージが低下することもあり、適切な投資ルールが業界隅々まで浸透することが望まれます。
また、起業家側においても、ベンチャーキャピタルときちんと交渉できるよう、投資契約の考え方、種類株式、ストックオプションの活用など、投資契約に関する知識の向上やアドバイザーの増加も必要となります。
日本ベンチャーキャピタル協会の挑戦
日本ベンチャーキャピタル協会では、日本のベンチャーキャピタル業界をリードする団体として、このような課題の解決策を、実施していくことになっています。人材については、経験豊かなキャピタリストや専門家を講師としてベンチャーキャピタリスト研修を開催し、人材の裾野拡大を図っています。また、ベンチャーキャピタルと機関投資家などで検討会を開催し、ベンチャーファンドのパフォーマンスのデータ整備を図るなど、投資資金の流れを作る基盤整備に取り組むこととしています。さらに、投資契約などベンチャー投資をめぐる法務・会計の環境整備になお一層取り組んでいくとのことです。経済産業省としても、このような協会の取り組みをしっかりとバックアップしていく予定です。
米国の最初のベンチャーキャピタルARD(American Research and Development)が創設されたのが、1946年、現在名門と呼ばれるセコイア・キャピタルやKPCB(Kleiner Perkins Caufield Byer)が創設されたのが1970年代初めでその後、米国のベンチャーキャピタルが産業として確立されるのに20~30年かかっています。
日本のベンチャーキャピタル業界については、さまざまな状況が異なるため一概には比較できませんし、米国のコピーを作る必要もありませんが、今まさに、産業として成り立つかどうかの大きな分岐点にあると考えています。日本ベンチャーキャピタル協会の新しいスタートを契機に、日本流の人材、資金の集積が進んで、ベンチャーキャピタル産業が確立され、わが国のベンチャーエコシステムの中心的な存在になることを期待しています。
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