同協会の広報関係の仕事で同行していると、保護者らとの話も多くなる。こうした費用の捻出には、それぞれの家庭事情があるのでいろいろだが「大変なんですよ」という人が大半だ。それでも「子どもの将来のために」というのが大きな動機付けになっている。「子どもへの投資」という意味合いも含まれている。小学生以下の選手たちにとって、この大会がどのぐらいになるかは、時間の経過を見る必要があるので、費用対効果は未知数だ。
一方、子どもにとっての最大の問題点は、学校を休むことでもある。米国は夏休みに入っているが、日本では夏休み直前で学校を休むことになる。世界的なスポーツ大会への出場なので「公休」になる学校もあれば、ならない学校もあるという。
米国と日本のスポーツに対する考え方の違いとは
こうした世界大会に出てくる選手たち、特に中学、高校の年齢だと普段から試合があって学校を休みがちになる。「勉強は?」と選手たちに聞くと、これもさまざまで「ノートを取ってくれるのでテストはそれで勉強する」という選手もいれば、出席日数不足で「評価不能って言われた」と話す選手もいる。
同協会の代表理事で、日本プロゴルフ協会のティーチング会員でもある井上透プロは、選手はもちろん、同行している保護者らにも、ことあるごとに「勉強もちゃんとしなさい」と言う。世界ジュニアの米国内の州予選を勝ち上がってきた選手たちは、エントリーの際に学校のIDカードと成績表の提出を求められるということを聞き、少し驚いた。成績の善し悪しが出場にかかわることはないと言うが、それが米国では当たり前の手続きなのだろう。そうした発想がない日本で、同じようなことをやったら、どういう反応があるだろうか。
「これが米国と日本のスポーツに対する考え方の大きな違い。米国では大学に行って勉強もゴルフもやってこそ、ちゃんとしたゴルファーとして認められる。日本では、『ゴルフさえうまければいい』という考え方が、選手にも、保護者にも、そして周囲にもあるのが間違っていると思っています。これはゴルフだけにかぎったことではないのですが、『文武両道』がやはり本来の姿だと思う。ゴルフしかできないという選手を、僕はつくりたくないんです」と井上プロがいう。日本と米国の大学生活の違いは、周知のとおり。ちゃんと学び、卒業してプロゴルファーになっている。
井上プロによると、ゴルフというスポーツは、データ的に見ても上達するのは練習時間に比例し、1万時間練習すれば大抵の場合はスコア的に言うとパープレーに近くなってくるという。だとすれば、毎日2~3時間の練習で、だいたい10年かかる計算。そのぐらいの長いスパンをみていれば、普通に学校に行けるし、勉強もできるはずなのだが、うまくなるためにゴルフだけに集中し、急ぎ過ぎている傾向が、最近の中学、高校のジュニアに多いと感じる。
世界ジュニアの前週に行われた日本アマチュアゴルフ選手権は、第100回という記念すべき大会だったが、決勝は高校生対中学生だった。一昔前は、大学生が優勝争いをしていた。筆者が取材を始めた30年ほど前は、社会人のほうが強かった。日本の競技ゴルフ界のトップが年々、加速度的に若年化しているのは、そんな「急ぎ過ぎ」があるのかもしれない。ジュニアのレベルアップは2020年東京五輪に向けて喜ばしいことではあるが、ゴルフ界として、また社会的に見ていいことなのか。そんなことを考えさせられた世界大会でもあった。
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