奈良公園の「シカの糞」観察続けた60歳彼の半生 糞虫に魅せられ45年、退職金で博物館を設立
平日は別の仕事をしていることから、開館は土日の午後のみ。基本的には中村さん本人が在廊しており、糞虫について聞きたいことがあれば何でも教えてくれるアットホームな雰囲気も人気のポイントだ。
展示の仕方にも工夫が見られ、カラフルなカラーボールを用いることで、昆虫が苦手な人でも見やすくなっている。日本の糞虫は黒っぽい地味な色の種類が多いが、青、赤紫などのカラフルな種類も見られる。その中でも、瑠璃色を呈したルリセンチコガネは、中村さんがその美しさに魅了され糞虫にハマったきっかけでもあるので来館時には目に焼き付けておきたい。
国内のみならず、国外の糞虫も見られる。規則正しく整然と並べられ、米粒サイズの物からカブトムシほどの大きさの物まで。糞虫というとフンコロガシをイメージする人も多いかもしれないが、国内においていえば、糞虫の中でフンを転がすのはマメダルマコガネのみ。
そのまま見るだけでなく、虫眼鏡や顕微鏡も備わっており、肉眼ではわからない細部まで観察することも可能だ。
来館者の男女比は半々で、子連れのお客さんだけでなくアクティブシニア、そして近所の子供たちも訪れる。普段見ることがない種類の昆虫だけに、子供だけでなく大人たちも「うわー!」「ねー、見て見て!」っと驚きの声をあげる方も多い。
ただし、細い路地裏に位置していることもあり、来館者の半分ほどが迷ってしまうとのこと。
「奈良育ちの私にとって、路地に入っていくのには何の抵抗もないんですよ。だけど都会の方は『この路地は個人の敷地内だから入ったらいかん』と思われるようで、なかなかこっちに来られないみたいです。晴れている日は看板を出しているので、それを目印にしていただければ」
訪問の際は、事前に場所を調べておくのがおすすめだ。
素の自分で語れることのうれしさ
学者でもなければ研究者でもない。でも糞虫好きだった昆虫少年は、進学、就職を経た第二の人生で糞虫館を作るまでに至った。そのことがきっかけとなり、メディアに取り上げられたりいろんな人と出会ったり。そして生涯続くライフワークにもなり、中村さんの人生に彩りをもたらしている。
そんな糞虫活動は、仕事ではなくプライベートと認識しているそうだ。プライベートだからこそできることも多いと、中村さんは語ってくれた。
「私はね、元々は仕事とプライベートをすごく分けちゃうタイプだったんですね。会社員時代は、会社の看板を背負った中村課長が話してるみたいな、そういうバリアが自分にありまして。でも、糞虫に関しては素の自分で話せるんですよね。 多分糞虫館を作ってなかったらこんな機会なかったと思います」
中村さんは糞虫館以外にも、奈良公園での糞虫の観察会、出張授業や講演などを通して、日々糞虫の魅力を伝える活動を続けている。
糞虫に魅せられ45年。「糞虫が大好きで、多くの人に糞虫の魅力を知ってもらいたい」という中村さんの底知れぬ思いは、これからも多くの来館者の心を揺さぶることだろう。
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