奈良公園の「シカの糞」観察続けた60歳彼の半生 糞虫に魅せられ45年、退職金で博物館を設立

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各地で糞虫を採集しては自宅の標本箱に収めていく。自分で採集したものは、国内約50種類、海外を含めると約80種類。寄贈や購入を含めると全部で約300種類。そうしていくうちに、標本箱に収められた糞虫は1000匹以上にもなった。

新幹線
新幹線の座席を一つ、大切な標本のために用意したこともあった(提供:中村圭一さん)

中村さんに再び大きな転機が訪れたのは、45歳、会社のライフプラン研修に参加したときのことだった。

「第二の人生を考えるきっかけになりまして。その結論は『好きなことをしていこう』でした。そう思ったとき、自分には糞虫しかないと思い、脱サラして糞虫館を作ることになったんです」

糞虫館
昭和40年築の古家を改修した館内は、1階が展示室、2階にはイベントで使用するセミナールームや非公開の飼育室・研究室がある(写真:著者撮影)

かねて、奈良市内には自然や生き物を対象とした施設や博物館がないことも気にかかっていた。奈良には神社仏閣とともに、豊かな自然が残っているからこそたくさんの糞虫がいる。そして糞虫はせっせとシカのフンを分解して土に還し、奈良の景観維持に大きな貢献をしてくれている。このことをもっと知ってほしいと、中村さんは考えていた。

糞虫の施設を作るのであれば、“糞虫の聖地”である奈良公園の近くでなければ意味がない。近くに2階建ての古家を見つけ、改修して博物館にすることにした。

同時に、糞虫についてあれこれ綴る「むしむしブログ」をコツコツ更新して、「昆虫類」のブログランキングでTOP3入りを果たす。各地の昆虫好きからメールをもらったりと存在を知ってもらえるようになっていた。そうして準備を進めて2018年7月8日、ならまち糞虫館は開館。自身の退職金と借入金、奈良市からの補助金を合わせて総工費1000万円を投じて誕生した。中村さんの第二の人生がスタートした。

来館者の半数が迷ってしまう理由とは?

糞虫館
知り合いのデザイナーによって考案されたオシャレな展示(写真:著者撮影)
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