安易に「共生社会」語る人に伝えたい"危うい盲点" 一方だけが得をする「寄生」になっていないか

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戦時期のドイツや日本を思いだそう。政府は、最初、雇用の創出と生活の安定をうたって、財政支出を急激に拡大させた。これが独裁者や支配者たちへの信頼を強め、彼らの対外進出への野心を支持する足場となった。

第二次大戦が始まると、財政のほとんどを軍事費が占め、相利共生どころか、国家や軍需産業が国民に「寄生」することとなった。受益どころか、命さえをも奪われる国民を統合するために、軍国主義的な教育や思想統制を通じて人びとを力ずくでつなぎ止めた。

以上の歴史を現在の相似形と感じるのは私だけだろうか。

いまこそ、あるべき財政の姿を語ろう

支出と負担のバランスを丁寧に論じるのではなく、バラマキを通じて安易に支持を得ようとする政治家が増えている。極左であれ、極右であれ、正面から税の問題を論じる政治家などほとんどいない。

憲法であれ、国旗・国歌であれ、道徳教育であれ、中国脅威論であれ、思想的に人びとを縛りつけようとする人たちがいる。明確な根拠も示されずに防衛費は、将来、倍増されることが提案され、これに野党第一党もあっさりと追随した。

私はこの軽佻浮薄な動きを悲しく思う。だが、これを批判するだけではダメだ。どのように相利共生社会を作っていくのか、その具体的な方法を議論しなければ。

いまこそ、あるべき財政の姿を語ろう。国民に共通の利益を、どのような財源で満たしあっていくのか、正面から論じよう。多様性と共生が両立する社会の可能性を、政治にお任せではなく、私たちの言葉でひらいていこう。未来はいまの延長線上にある。

※この連載は今回で一度お休みをいただきます。10月に再開する予定です!

井手 英策 慶應義塾大学経済学部教授

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いで えいさく / Eisaku Ide

1972年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。日本銀行金融研究所、東北学院大学、横浜国立大学を経て、現在、慶應義塾大学経済学部教授。専門は財政社会学。総務省、全国知事会、全国市長会、日本医師会、連合総研等の各種委員のほか、小田原市生活保護行政のあり方検討会座長、朝日新聞論壇委員、毎日新聞時論フォーラム委員なども歴任。著書に『幸福の増税論 財政はだれのために』(岩波新書)、『いまこそ税と社会保障の話をしよう!』『18歳からの格差論』(東洋経済新報社)ほか多数。2015年大佛次郎論壇賞、2016年慶應義塾賞を受賞。

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