韓国で23年興収1位「ソウルの春」が描く軍事反乱 実在の事件に一部フィクションを交えて映画化
本作のメガホンをとったのは、世界的に高い評価を受けた『MUSA -武士-』『アシュラ』の名匠キム・ソンス。
当時、(数え年で)19歳の高校生だったキム監督は、12月の寒空に響き渡った軍事クーデターの銃声を鮮明に記憶しているという。夜中に装甲車を目撃したキム監督は好奇心にかられ、もっと近くで見ようと陸橋に向かったところ、そこで銃声を耳にしたというのだ。陸橋では兵士たちがもみくちゃになっていた。
だがそこで何が起こっていたのか、それを知るのは後のことだったというが、その後の人生において、その時の光景が幾度となくフラッシュバックし、脳裏に焼き付いていた。それから時は過ぎ、2019年秋。本作のシナリオを手にしたキム監督は「体中の血が逆流するような戦慄を覚えた」と明かす。
このクーデターについての回顧録や評伝、記事などは多数残存しているが、実際に反乱軍の内部がどのような様子だったのか、そして鎮圧軍の具体的な動きなどについても、正確なところはわかっていない。そんな韓国の現代史の運命を変えたあの日を、果たして自分が描くことができるのだろうか、という思いにかられたという。
鎮圧軍と反乱軍の正義がぶつかり合う
一度はオファーを断ったというキム監督だが、「当時を知らない世代の観客をも、事件が起きたあの日、あの場所へと誘う」ことができるのならば、この事件を描けるのではないかと思い立つ。
そのため、事件の大枠は、歴史的事実に沿って構成するが、登場人物については架空の人物として構成し(ただし主人公のモデルがチョン・ドゥファン保安司令官、チャン・テワン首都警備司令官、といった具合に、それぞれのキャラクターのモデルとなった実在の人物は特定しやすいようになっている)、その性格や細部については創作を加える方針を定めた。それによって「反乱軍」側と、「鎮圧軍」側のキャラクターが掲げるそれぞれの正義が明確に浮かび上がり、それをぶつけあう対立構造が鮮明になった。
だがこの世界に存在するのは主人公たちのような信念を持つ者ばかりではない。たとえば「鎮圧軍」の中にも足を引っ張るように保身に走る高官たちが多数存在する。
気位ばかり高く、いざという時に決断する覚悟もなく、及び腰な彼らに翻弄され、状況がどんどんと悪化していく――。そうした“上司に恵まれない”組織の悲哀、失敗の本質のようなものも本作ではしっかりと描かれている。
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